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Artist Press Vol. 6 > Feature: ヒダノ修一

ヒダノ修一インタビュー

機材紹介


ヒダノ修一インタビュー

 

 

和太鼓の概念を打ち破り、ジャンルを超えて活躍するTAIKO DRUMMER ヒダノ修一。

和太鼓や演奏スタイル、そして世界を視野に入れた今後の活動や抱負を語ってもらった。

 

太鼓・・・日本のオリジナルとして発信

Q: 和太鼓の認知度とは?

ヒダノ:
10年くらい前にニューヨークのクラブシーンで、和太鼓の音をリミックスのアーティストが一斉に、一番有名なのはビル・ラズウェルが鼓童を取り上げて、向こうのクラブシーンで一斉に流行らせたんです。だからそういう意味では、人工的にイコライジングでいじった低音ではない、自然に出る重低音に注目された。まあ、日本から唯一世界に出せるオリジナルの打楽器じゃないかな、と思うんです。しかも世界で注目される比率の高い楽器、というか・・・他に三味線や尺八がありますけれども、とっかかりやすい楽器。アメリカやヨーロッパではもう、「太鼓」っていうのが認知されていて、例えばクラプトンなんかも太鼓大好きだし、友達の太鼓グループがイギリスツアーに行ったときに、ビル・ワイマンが持っている番組にゲストで出たり、ヒダじんぼも今年、ロンドンに行くんですが、海外という視野で見たときに、言い方は悪いけれど、"真似事ではないもの"だと思うんです。

その割に、国内で認知されていない部分があって、やっぱりギター、ベース、ドラム、ヴォーカル、パーカッションという楽器が並んでいる中に、「和太鼓」っていうのは入らないですから、楽器としての認知度はやっぱり、低すぎるんですよね。今日本で15,000団体くらい和太鼓のグループがいると言われていて、何百万人っていう太鼓人口がいるんですよ。けれども、その人たちは、やっぱり水面下なんですよね。和太鼓というか邦楽器のコンサートもたくさんあるんですが、なかなかマスコミ・メディアがとりあげてくれなくて、僕なんかも「コンサートやる」って全く知らない人に話したりすると、「そのへんの祭りで見られるような太鼓に金なんか払えるか」と言われた記憶があるんです。ただ、ここ10年間で吉田兄弟のようにマスコミが取り上げるビジュアル系若手が増えてきて、よい傾向になってきています。

僕は和太鼓を洋楽器と同じように扱いたい、扱ってもらいたいと思っているんです。僕は和太鼓の「和」という字がついているのが気に入らない訳ではないんですが、「太鼓」にしてるんですよ。プロフィールとか全て、「TAIKO DRUMMER」にしているんです。

アメリカに仕事で住んでいた時に、友人であるセルジオ・メンデスのドラマー、マイク・シャピロやケビン・レットーのドラマーに、「お前は、TAIKO DRUMMERだ」と言われたんです。「あ、こういう呼ばれ方いいなあ」と思って、それ以来そう表現しているんです。

「和」を付けることによって、洋楽器、和楽器って分けちゃっている。僕はなんでもいいと思うんですよ。三味線だろうが、尺八だろうが、サックスだろうが、バイオリンだろうが、ビワだろうが、全部同じ音楽を奏でる楽器だと・・・

僕はもともと洋楽出身で、クラシック、ロック、ジャズは一通りやっているんです。自分が初めて太鼓に触れた時の衝撃、18歳の時なんですが、それを一般の人に伝えて、もっと太鼓をポップな位置に持っていきたい、それをライフワークにしたいな、と思っているんです。

***コラム***
聴覚障害の方のためのコンサートを一昨年ら埼玉でやっているんです。「ドラムやギター、ベースは全く聴こえないけど、太鼓だけは聴こえる」・・・そういう周波数を持っている楽器なんですけど、今、音楽療法としても結構太鼓は注目されていまして、バスドラムよりも、もっと自然な重低音が出るし・・・

 

ファイバー製和太鼓を開発・・・


Q: 今回、開発されたファイバー製和太鼓について教えてください。

ヒダノ:
今アメリカのメーカーのREMOとアドバイザリング・アーティスト契約をしていて、皮も胴も全部ファイバー製の太鼓を開発したんです(もともと和太鼓は牛や馬の皮を使っている)。世界のドラム市場の8割を占めている最大手ですよね、REMOっていうと。ドラマーだったら使っていない人がいない、っていうくらいの・・・そのREMOが和太鼓に注目したということは、それだけアメリカで和太鼓が認知されていると僕は解釈しているんです。昨年、ヤマハ・ミュージック・トレーディングが輸入しはじめて、6月に一般発売を始めましたね。

Q: 音自体はどのような感じですか?

ヒダノ:
僕は音もビジュアルも好きなんです。とにかく日本では考えられないようなことを、アメリカ人はいとも簡単にやってしまったので・・・なんというか、非常に楽器が「鳴る」っていう感覚があるんです。太鼓ってリハーサルと本番とで音が違うんですよ。チューニングが全然違ってしまって・・・それはチューニングが出来ないですから、自然にまかせるしかないんですよ。ファイバーの場合、これが無いんですよ。最初にチューニングしちゃったら、そのまま半永久的に同じなんで、だからどこでも、良い、自分の気に入った音が出せる、というメリットがあるんです。


Q: もともと和太鼓に"チューニング"というのはないんですね?

ヒダノ:

 ↑ チューニング・キー

ロープを使用してチューニングする種類はありますが、調整後の仕上がりはコントロールできないんです。チューニングしてからのお楽しみ、ということで・・・!でもいわゆる一本の木をくりぬいて作る長胴太鼓という種類では無いです。だからそれを僕が「チューニングのできる和太鼓を」と要求したんです。「和太鼓1500年の歴史の中で、いまだかつて1度もない」と言ったら、2ヵ月くらいで作ってきましたね。

ちょっと金属っぽい音がしますが、さすがにドラムメーカーだけあって、マイクのりが素晴らしいんです。マイクを通した、これからの新しいスタイルの和太鼓、僕は「21世紀の太鼓じゃないかな」と思って、賛否両論、いろいろとあると思うので、それぞれの好みで楽器を選択すればいいと、万人に受ける和太鼓なんて無理ですから・・・。ギターでもレスポールがいい、ストラトがいい・・・といろいろ好みがあるわけですから。ただ今回のREMOは、何かしら日本の和太鼓界に波紋を投げかけると思うので、"どどん"と行って欲しいな、と思うんですけどね。


Q: ヒダノさんの場合、太鼓は全てマイクを通しているのですか?

ヒダノ:
エレクトリックな楽器と共演する時はお客さんにクリアに伝えるためにマイクを通します。でも完全にアコースティックでやる時もあります。

Q: マイクで拾うと、音はどう変わるんですか?

ヒダノ:
エンジニアによりますが、それなりに音が潰れます。から1500人くらいのホールであれば、生でやった方が十分伝わるんですよ。ただライブハウスの場合は限界があって、天井が低いし、床にちょっと絨毯が引いてあったりすると、もう太鼓は終わりですからね。でもドラムは最初からマイクを通すように改良されているんで、ドラムのほうが、そういうときはやっぱり"勝つ"んですよね。だからREMOのファイバー製を使って「マイクを通すことによる音の安定」というメリットがあるんです。

Q: そのとき和太鼓独特の振動は?

ヒダノ:
それなりにありますね。完璧ではないですけどね。


Q: その楽器が、「とにかく高い」と言われている和太鼓より、比較的安い値段で買えるわけですね?

ヒダノ:
市場の半額以下ですね。市場の普通サイズの太鼓が80〜100万からするんですけれど、30万台くらいで買えますんでね。ただ和太鼓を買う人には「けやき」とか、「木目」とか、そういうヴィジュアルを重視する人も多いんですが、これから世代が代わっていけば徐々に浸透していくと思うんです。例えばドラマーがドラムセットの中で和太鼓をセッティングしたり、これからは自由だと思うんです。

***コラム***
和太鼓の場合は特殊なんですけど、1個1個が、とにかく高いんですよ。僕の今日のセットは全部で二千万円くらいなんです。大きな太鼓なんか1個、一千万円くらいしますからね。僕の場合は借金して、とにかく先に買っちゃったんです。

 


和太鼓セット・・・

Q: 和太鼓セットというのは、ヒダノさんが思いつかれたことなんですか?

ヒダノ:
日本語で言うと「組太鼓」って言うんですよ。小口大八さん(日本太鼓連盟会長)が戦後(50年くらい前)初めて「組太鼓」っていうのをやったんです。小口氏は元ジャズドラマーで、アートブレイキーとも一緒に演奏していた方なんですが、50年くらい前ですかね、初めて5個で組んで、その後、20年くらい前に林英哲さんが、ソロのプレイヤーとして一番最初にスタートした方で、林さんがもう少し数を多く増やして、僕はその発展形ですかね。だからいろんな人に言われて、いろいろなアイデアをもらって、今の形になったんですが、シンバルを入れ始めたのは、9年ほど前にベーシストのバカボン鈴木さんに「4小節に1回くらいシンバルを入れたら?」と言われたことがきっかけなんです。

Q: まだまだ変わっていく可能性もあるんですか?

ヒダノ:
変わると思いますね。人からのアイデアをもらうことによってより機能的になりますし、REMOさんにもすごく協力していただいています。今後はパーカッション部分も含めて、海外に通用するプレイスタイルを目指したいんです。


太鼓奏法・・・

Q: 太鼓奏法について教えてください?

ヒダノ:
僕の場合は、オーケストラの打楽器、ドラム、ラテンパーカッション、インドの打楽器そして太鼓と、全てのたたき方を理解しているので、全てを取り入れていますね。その曲、形態によって、自然に自分が作り出してきたフレージングで、、、バンドの時は太鼓っぽくやったり、太鼓だけの時はあえてキューバっぽくやったりとか、いろいろな引出しをだしてきて、ベーシストによっても奏法を変えたりします。


Q: ドラムと太鼓の奏法の違いは?

ヒダノ:
打ち方が基本的に違います。ドラムはより力を抜く。太鼓も基本的には力を抜くんですよ。抜くんですが、スピード゙がもう少し速いですね。で、バチがやっぱり重いので、重い分、それをふるだけの基本的な体力が必要ですね。でも全身の力は抜いているんで、リラックスはしています。力を抜く、という点では基本的に同じなんですが、ドラマーと違うのは、僕らは一発打つのに腰から打つんですよ。全身をムチのように、バネのようにして、バーンと打つんで、力は抜けているんですけれど、体の使い方が違うんです。だから普通のドラマーがもし大太鼓を30秒叩いたら、一日終わっちゃうと思いますね。そのくらいすごい体力がいるんです。僕は今32歳で中堅ですが、もう40歳で大御所です。和太鼓は・・・。

 

Q: スポーツと同じですね。

ヒダノ:
寿命が短いんです。もう大変ですよ。

Q: 普段はどのようなトレーニングをされているんですか?

ヒダノ:
基本的に腰を痛めているので、腹筋とか簡単なことはしますが、あとは年間約120本のコンサートと、それにプラスしてリハーサルがあるんで、休む時間がほしいんですよね。リラックスできるようにストレッチをしたりはします。太鼓叩くだけで十分なんです。筋肉が固まるんです。それをほぐせば次、使えるんです。


活動・・・

演奏活動:

Q: いろいろな形態で演奏活動されていますね?

ヒダノ:
通常はバンドのリズムセクションとして位置する方が多いです。その1つとして、前半は太鼓としてちゃんと見せて(バンドスタイルではなく)、後半はエレクトリックなバンドスタイルで・・・太鼓本来の形式を見てもらったあとで、その発展形を見てもらう・・・これをセットにしたコンサートをたまにやるんですよ。それを観ていただければ、「もっと太鼓が面白いと思っていただけるんじゃないかな?」と思うんです。両方のスタイルでできるのが、僕の武器じゃないかな、と思うんで、両方を見てもらうことによって、最後にやっぱり「太鼓ってカッコいいね」「いいじゃん太鼓」って言わせたいんです。

あと神保彰さんやミッキー吉野さんとのデュオ・・・太鼓って不思議なんですが、僕の場合、けっこう音程が分れているので、ベーシストの部分とパーカッショにストの部分、あとドラマーの部分と、全て持っているんですよ。ミディアムファンク、バリバリのロック、バラード、全て太鼓で出来るんです。あと、太鼓で「ド〜〜ン」って打つと、次直ぐ打たなくても、その余韻にひたれるんです、日本人は。だ
からゆったりとしたビートを打つには、太鼓にまさるものってないと思うんです。

***コラム***

鳴瀬喜博さん・・・

いろいろなベーシストの方とやっていますが、あれくらいないと(音の大きさが!)僕と合わないんですよ。
「ドラマーと組むのと、ヒダノと組むのと、どう違うか?」 鳴瀬さんに聞いてみてください。

⇒ 鳴瀬喜博さんにうかがいました!

 

ヒダノ:
その上で、何故僕が神保さんと「"ヒダじんぼ"をやっているか? 」が多分見えてくると思うんです。神保さんはソロアーティスト、僕も基本的にはいろんな活動をやっているソロアーティストなので、お互いに"一緒に音楽を作れるアーティスト同士"ということで、すごく息投合してたんです。

たとえば海外に太鼓だけでいくと、「あ、また日本の太鼓が来た」となるんですけど、ヒダじんぼの場合は「なぜ神保彰と組む?」「2人のうち、どっちをアテにしてくるか?」その辺も面白いです。

ヒダじんぼでは、トリガー無しの、太鼓とドラムだけの曲もいっぱいあって、譜面はあっても最後は呼吸でやっていますから、その緊張感ってやっぱすごいんですよ。

ヒダじんぼについて詳しくは、Artist Press Vol. 2 「神保彰インタビュー」 「ヒダじんぼライブレポート」 「ヒダノ修一メッセージ」をご覧ください。


Q: ソロパフォーマンスもされるとうかがいましたが、やはり太鼓セットだけで演奏されるんですか?

ヒダノ:
セット以外にも大太鼓や、他にもいろいろな世界中の楽器を取り入れてます。太鼓でメロディーも出せますし、あと歌ったり、ボディーパーカッションもやります。

とにかく太鼓の可能性を探っている最中、と申しますか、太鼓はなんでもできる、単に日本の古典的な楽器ではなくて、発展する可能性が十分にある、世界に発信できる楽器だと思うんで、それを一刻も早く、日本で市民権を得たいんですよね。


講師として・・・

Q: ハリウッドで教えられていたと伺いましたが?

ヒダノ:
ショー・コスギさんに1年間だけ手ほどきをしたんですけど、彼が中心となったハリウッドのアクション俳優の専門学校があって、そこの講師を半年やっていたんです。で、今アメリカだけでも300団体くらい和太鼓のグループがあるんですが、"音楽のリズムトレーニング"という部分と、一本コンサートやると3キロくらい痩せるという"運動"の部分とで、教育上取り上げられているんです。

あと、ジャズの専門学校LAMA(Los Angels Music Academy)で太鼓を教えていたんです。向こうでは基本的に太鼓とドラムを「あんまり差が無い」、おんなじ楽器として見ているんです。だから「日本のものを教えてくれ」とは言わないですね。「太鼓ドラムのビートをもっと肌で感じたい」っていう部分があるので、向こうのドラマーと一緒にクリニックやったりしていました。日本ではまず先入観で日本の楽器、ときますけど、アメリカやヨーロッパでは、日本人が持っている「固定のイメージ」が浮かばないんで、ひとつのエンターテインメントとして見てくれるんです。だからそういう意味で海外は好きですねえ。



展望、抱負・・・

Q: これからの展望、抱負は?

ヒダノ:
今一番盛り上げていきたいのは、ヒダじんぼですね。究極のユニットと言いますか・・・生涯、本当に出会うべき人と出会ってしまった、というか、愛を感じるんですよ、あの人とは(笑)。すごく細いけど、大きい人なんです。ヒダじんぼに関しては、あの2人で作っておけば、世界中どこに行っても、ゲストにあらゆるミュージシャンを呼べるんです。あらゆることが可能になると・・・

あと、ゴスペルコーラスの亀渕友香んと組んでいて、今年は海外のミュージシャンを呼んで、僕のプロデュースでいろいろと企画しようかと思っています。

僕は今まで、本当に人に恵まれてきていて、呼びかければ賛同してくれて、アイデアをかしてくれる、知り合いがたくさんいるんです。今、ようやく自分の好きなことが、好きな場所でできるようになって、、、それが楽しいですよね。何をやっても今、仕事が楽しいです!

そして最後、60、70歳で、もし太鼓を叩けるのであれば、じわーっと、こう歌うように太鼓を叩きたい、というのがあるんです。


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ヒダノ修一スーパー太鼓コンサート(大和市生涯学習センターホール)での本番前、タイトなスケジュールの合間をぬってインタビューに応じていただきました。和太鼓という楽器の魅力や可能性について熱く語られる、バイタリティーあふれるお姿が印象的でした。(2001.11.23)

*本文中の年数は、2002年を基準にしたものに訂正してあります。

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INTERVIEW&PHOTOGRAPHS by Asako Matsuzaka

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