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ソロアルバム「龍飛 〜tappi〜」
大きな龍が空に昇っていくビジョンが浮かんだんです・・・
Q:「Heart Real I」「龍飛」などは、聴いているととても雄大な景色、広大な大地・・・そんな情景が浮かんできます。そしてジャンベを中心にしたビートもとても心地いいですね。映像と一緒に聴きたいような気がします。
佐藤:
どうもありがとうございます。そうですね。広い景色の中でもどちらかというと、アメリカ大陸よりはユーラシア大陸っていうイメージなんです。映画のサウンドトラックを何本かやったことがあるんですが、映像に音をつけるのはすごく好きですね。
Q:作曲されるとき、映像や景色からインスピレーションを得ることは?
佐藤:
曲を作る時には、"感覚的景色"のようなものをわりと持つほうで、映像的なものから音を感じることも少なくありませんね。ただそれ以外にも、みんなで酒飲んで大笑いしている時に、きれいなメロディーがふっと浮かんだりとか、なんか、いきなりぽこっと浮かぶことも多いですね。比較的自然な感じで・・・
Q:インスピレーションが浮かんだときから曲が完成するまで、一環したイメージをもたれていることが多いのですか?
佐藤:
作っている時には、「メロディー」や「リズム」以外に、「匂い」や「感触」という面でもこだわりはあります。曲名などにもわりとこだわるほうですし・・・ただ出来上がった時には、それぞれの人がそれぞれのイメージを持って、自由に聴いてくれるといいなと。それが僕にとって理想的なことです。
Q:このアルバムを通して表現されたかったのは?
佐藤:
すべての肉体の中に、秘密は全部隠されている。感情的なこと、筋力的なこと、そして、その向こう側にあること・・・それぞれの肉体の中にすべてがあるということを、まずは思うままにやってみようと思ったんです。一つの体から発せられたものだから、その先には確固たる表現があるはずだっていうことですね。
Q:完成したアルバムについてのご感想は?感触は?
佐藤:
今回は、ベルナール・パガノッティをはじめ素晴らしいフランスのミュージシャン達が参加してくれたんですが、初日からみんなリラックスして、すごくいい雰囲気でレコーディングが進んでいきましたね。で、最終的に感じたのは「今ある自分の音を出すことだけなんだな」ということ。結果として(フランスに)行く前に想像していたものよりも、一回りも二回りも大きいものができたと思います。
Q:ミュージシャンの、いちばん根底にある部分が表現できたということですか?
佐藤:
そうですね。僕自身もアレンジに関してひとつの完成形を持って行って、彼らは彼らで(共同プロデュースのベルナール・パガノッティとカンパニー・プロデュースのベルトラント・ラジュディ)ひとつのイメージを持っている。それをポンと出し合った上で、自由にやりましょうということにしたんです。一番大事なのは人、それぞれの生き方をしてきた人間同士が、一つのイメージに対して裸で演奏し合う。音楽のアレンジが決まっていたとしても、そのコラボレートによって、そこに注ぎ込まれるエネルギーっていうのはぜんぜん違ってくるということです。だから人がすごく大事。・・
・当たり前のことなんですけどね。
Q:もともとフランスの方たちとの交流はあったのですか?
佐藤:
ベルナールとは8年前から交流があります。当時、僕があるボーカリストのプロデュースをしていたときに、幸運にも彼と知り合う機会があって、その場で「あなたのことがすごく好きだ、弾いてもらえませんか」とお願いしてベースを弾いてもらったのがきっかけです。他のメンバーはお互い噂では知っていても、演奏したのは今回が初めてです。
Q:今回、新しくリアレンジして録音しなおしたもの、という曲もかなりあるのですか?
佐藤:
アレンジを大幅に変えたものもあります。「Warm rain」と「硝子の月」はずいぶん変わったし「Apology」のように新しいメロディーを加えた曲もあります。「Heart
RealのI、II 」については、もともと芯の部分は残したままで、その芯を包み込む色彩感に力強さが加わったと思いますね。
Q:一番、印象深い曲は?
佐藤:
「龍飛〜tappi〜」。「龍飛」というアルバムタイトルをつけたきっかけになったのがこの曲で、部屋に帰って聴いている時に大きな龍が空に昇っていくビジョンが浮かんだんです。はからずも一番最近の曲なんですよね。レコーディング前に書いた曲なので、今の自分なのかな、っていう感じです。全部好きなんですが、印象深いという意味ではこの曲ですね。
***コラム*** |
プログレッシヴ・ロック 世界的に、再結成するバンドも多いですね。 もともと、あらゆるものを取り入れた、新しいものを作ろうっていう 活動の発路だったわけで、プロのミュージシャンの間でもプログレ好 きは、意外に多いですよ。 一時プログレッシヴ・ロックっていうものが、大仰な音楽という捕らえ方をされていた時代もあったけど、今は新しい音楽を作ったり、昔、ヨーロッパでプログレをやっていた人がハウスミュージックをやりはじめたりとか、いろいろなものが交錯していて、面白い時代ではありますね。 もともとのかたちが、新しいものを全部とりいれて・・・っていうことだから、懐古的にならなければ、一番前向きな音楽の中のひとつだと思います。 |
Q:とても幅広いジャンルで活躍されていますが、佐藤さんの音楽的ルーツというのは?
佐藤:
小学生の頃から、クラシック、マイルス、ジミヘン、ビートルズ・・・と幅広く、あらゆるものを聴いてきたので、ルーツを言うと難しいですが、大きなくくりで言うと、やはりポピュラー・ミュージックということになると思います。それぞれのジャンルの中で、クラシックの中でも僕にとってのポピュラー・ミュージックがあり、またマイルスも僕にとってはポピュラー・ミュージック、ということなんです。まぁ雑食、雑食・・・
それから僕の育った町では、お祭りの時に山車(ダシ)が何台も出てリズム合戦をするんです。その昔は、「リズムがガタガタになった山車が負け」といったお祭りで相当レベルが高いんです。今行って聴いても素晴らしいですよ。その音が夏祭りの前になると町中に流れるんです。皆で練習しているから。話しているだけで、わくわくしてきますね。
Q:やはりそういうベースがあって、まずはドラマーを目指されたのですか?
佐藤:
打楽器というのが、一番性に合っていたんですよね。打楽器を選んだ理由は、ただ好きだからなんだけど、はからずもパフォーマーとして声と打楽器を中心に演奏活動をしているということは、無意識に大地のようなものを感じていて、それを自分の体を通り道にして出したい、というような部分があるんだろうと思います。原始的な2つの楽器でしょ、声と打楽器って。だから原始的なのかもしれませんよ。(笑)
Q:ヴォイスに興味を持たれたのは?
佐藤:
ドラムを始めたのは小学校5年生くらいで、声を出すということに興味を持ったのも同じ頃ですかね?ドラム中心にやってはいましたけど、ヴォーカルとりながらドラムを叩いたり、レコードで聴いたドラムを口で歌ったり、もともと声を出すのが好きだったんですね。
Q:ヴォーカリストではなく、ヴォイス・パフォーマーとして演奏されるということは?
佐藤:
なんかね、同じ声なんだけど、いわゆるヴォイスっていうのは、はみ出し部分というか、はみ出したかったのかもしれない。ただの表現にしたかったのかも?純粋に表現ってなんなんだろう、声ってなんだろう、というようなことを感じていたんだとうと思いますけど。
Q:ヴォイスでなければできない表現がありますね?
佐藤:
やっぱり声はすごく正直だと思うんです。印象深いし、倍音がめちゃめちゃ多いから、重ねてもすごく面白いことが起こるんです。そういえば、以前は新体操の音楽にヴォイスを入れることができなかったんです。「Heart
Real I」を録音する時、ヴァイオリニストの太田惠資さんに弾いてもらったんですけど、太田さんもヴォイスをやるので、すごくいい感じで弾いてくれて、ヴォイスということがわかっている人だなあ、と感じたんです。メガホンで入れておいたら良かったかもしれないけどね。あ、それじゃ駄目だったんだ。(笑)
* 佐藤さんは、シドニーオリンピックの新体操チームに曲を提供するなど、新体操の音楽をよく作曲されています。
詳細は、佐藤正治OFFICIAL SITE(http://ok-massa.com/)またはArtist's
Data > Profileをご参照ください。
* 太田さんは、ヴァイオリン演奏のほか、メガホンを使ったパフォーマンスを得意とされています。
詳細は、太田惠資OFFICIAL SITE(http://www01.u-page.so-net.ne.jp/fa2/soichiro/ohta/)をご覧ください。
Q:聴衆としてヴォイス・パフォーマンスを楽しむためには、どのような聴き方をすればよいのでしょうか?
佐藤:
ヴォイス・パフォーマンスは、一つ一つ音の流れを追っていくというよりも、漠然と聴いて(見て)もらって、終わったときに、自分の中に何が残ったか、というふうに、捉えてもらう・・・ぼーっと聴いて、終わった時に、「あ、こういう気持ちになっている」っていうような捉え方をしてもらうのが、一番面白いんじゃないかな、と思いますね。
Q:もうひとつ、楽器のことでうかがいます。ジャンベというのは、その音の深さといい、響きといい、ものすごく存在感のある楽器ですね?
佐藤:
日本に正式に入ってきたのは15、6年前くらいかな・・・ドイツ経由で入ってきて、打楽器奏者がスタジオとかで使い始めたんだけど、10年くらいたって、一般の人も使うようになってきましたね。もしかしたらパーカッションの中で、ミュージシャン以外の人が持っている楽器としては、意外にジャンベが多いのかもしれません。わりと普通の人にも叩きやすいしみんなで一緒に演れる。あと、抱えるでしょう?だから、全身に振動が伝わって気持ちいいんですよね。今はわりと手に入りやすくなって、普通にポップな楽器になりましたね。
* ジェンベについては、佐藤さんに執筆していただいた、特別企画「ジェンベ魂」もご覧ください。
Q:ジャンベ、ドラムス、ヴォイス・・・出したい音色というのはありますか?
佐藤:
美しい音は本当に美しく、力強い音は本当に体中がグワーッて感じるような・・・どちらもその音を聴いただけで「ああ気持ちいい」って思うような音ですね。そのダイナミクスの幅というのを大事にしたい。
ライブについて
エネルギーの好感が頻繁におこる。だから楽しい・・・
Q:ライブの醍醐味とは?
佐藤:
ライブってお客さんのエネルギーをもらって、こちらからそれを増幅して返して・・・みたいなやりとりがすごく好きです。10月のライブでは、このアルバムの中に入っている曲をほとんどやったわけですが、録音された音を再現することよりも「このメンバーで一番かっこいい音を出そう」ということを重視しているんです。メンバーそれぞれが自由な緊張感を持って演奏することが、お客さんに一番よく伝わることだと思うんです。そうすると、エネルギーの交換みたいなものがすごく頻繁におこるでしょう?それがすごく楽しいですよね。
Q:ライブでお客さんからキーワードをもらって即興演奏していますよね?
佐藤:佐藤:「dai‐morai」っていうのですね。
Q:その場で考えて、組み立てて、即興演奏されるんですよね?
佐藤:ステージで丸くなって話しているのは、あれは打ち合わせじゃなくて、雑談しているんですよ。(笑)その間に僕がストーリーを考えて・・・メンバー全員がものすごく人の音を聴いてくれる。みんな本当に鋭敏で素晴らしい仲間です。
セッション活動など
セッションは新しい刺激・・・
Q:ご自分の音を表現するバンドは、“Creole a massA”(クレオール・ア・マッサ)だけですか?
佐藤:
ここのところは、"Creole a massA"が中心ですね。今、シングライクトーキングの西村智彦君と"Chu"っていうユニットをやろうとしているんですよ。去年(2001年)から言っているんですが、お互いのスケジュールが合わなくて、なかなかできないんです。2人ともやる気満々なんですけどね。それから、"massA's
Jammer"というバンドもやっています。
Q:セッション活動も積極的に行われていますね?
佐藤:
セッションは新しい刺激だし、いろんな人にも会えるし、両方やっていきたいですね。それから、さっき言ったように映像に音をつけたりとか、そういうこともやりたいですねえ。
Q:映画音楽の作曲については?
佐藤:
そうですね、今まで2本やったんです。わりと自由にやらせてもらいました。段取りとかが音楽の世界とまた違うんですが、その辺さえ知っていれば、とても面白いですね。
表現したいこと
「希望」を音楽で表現していきたい・・・
Q:あらゆる活動を通して、大きく表現したいと思われていること、というのは?
佐藤:
基本的には、「自分を通り道にして何かを感じてもらえること」が本当の音楽だと思うんです。「表現」というものの中には、「ある種のエネルギーの層みたいなもの」があって、そこにピッて触れると感じるエネルギーを表現することができればと思っています。
あとは個人的な気持ちとして、口はばったいし、えらそうなのかもしれませんが、「いい未来であったらいいな」という、そういう気持ちが伝わればいいな、と思っています。僕らが死んだあとの時代や子供たちの未来が、幸せなものであってほしいというような・・・
希望を感じられるような、希望を感じないと生きていく力が減ってしまうから、それを僕は音楽で表現していきたいということなんでしょうね。表現した時には、どうしても個人のフィルターがかかってしまうけれど、そのフィルターは何か、といったら、やっぱり未来への希望というものなんだろうなと思います。
日本のミュージックシーン
すごく面白いものが出てくる可能性もある・・・
Q:フランスでも活動されている佐藤さんから見て、日本のミュージックシーンについて思われることは?
佐藤:
2つあって、まず1つは、いろんな要因があるにせよ、音楽という世界がダウンしていると思いますね。ある一部の人だけは、注目されていたりするんだけど。もう1つはその逆の側面で、インディペンデントレーベルが結構自由なことをやって、活発な動きを見せるようになりましたよね。元気がないな、ということがある一方で、すごく面白いものが出てくる可能性もあるんじゃないかなと。僕はそこに期待というか、感じるものがあるんです。
フランスと比べてという部分では、特にないような気がしますね。でもフランスに行ってすごく感じたことは、自由や表現するということに対する気迫みたいなものが、すごく強くあるんですよ。これを奪われてなるものか、というような。日本人は、もう少しアジア的で、おおらかな気がしますね。どちらがいい、ということではなくて。
抱負・・・
興味があるのは人がコラボレートして、一つになった時に生まれるエネルギー・・・
Q:最後に今後の抱負を聞かせてください。
佐藤:
まず、このアルバムをいろんな人に聴いてほしい。そして、ライブをたくさんやっていきたいですね。「龍飛〜tappi〜」のレコーディングメンバーで、ぜひ日本でライブをやりたいですね。
あとは映像やダンスにすごく興味があるので、ダンス音楽もやってみたいですね。それから、今すごく興味があるのは、人が集まってコラボレートして、それが一つになった時に生まれるエネルギーです。そういう意味でも、いろいろな人達といろいろな場所で出会いたいですね。とにかく外に広くどんどん出て行きたいと思っています。異種格闘技じゃないけど、音楽以外のことをやっている人たちとも、面白いことがしたいですね。そして打楽器や声を使って子供たちと遊んだり、そういうことも機会があれば、積極的にやっていきたいと思います。
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インタビュー中、企画記事「ジャンベ魂」の原稿執筆を快く引き受けてくださった佐藤さん。表現するということへの情熱を秘めた、自然体でありながら、とてもエネルギッシュな方でした。(京王プラザホテルにて 2002.11.9)
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インタビュー&写真: ASAKO MATSUZAKA
写真提供:massA: 佐藤正治
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