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Artist Press Vol. 13 > 鶴谷智生

鶴谷智生インタビュー
機材紹介
ライブレポート(sclap, クリヤマコト TRIO, Shiro Sasaki Caoba Big Band, バカボン鈴木セッション, INFINITE SIRCLE, 丹羽勝海)



鶴谷智生インタビュー


静と動をあわせもつドラマー、鶴谷智生。嵐のように激しいストロークと繊細なシンバル使い・・・完璧にコントロールされた中での集中したプレイは見事である。

ジャンルの壁を越えて活躍する彼に、音楽観やドラミングについて語ってもらった。

鶴谷智生オフィシャルサイト: http://www.teecrane.net/
鶴谷智生プロフィール



音楽との出会い
ドラムとの出会い
ルーツ〜フランク・ザッパ
鶴谷流ドラム習得法

ドラム奏法〜筋力と脱力のバランス
叩く激しさと音色
ドラマーとしてのプレイスタイル
ビートとグルーヴ感
音楽を演奏するということ
オール・ラウンド・プレイヤーと言われることについて
2004年、そして今後の抱負




音楽との出会い


Q: 初めて感動した音楽は?

鶴谷(以下、T):・・・なんだろう?映画音楽かなぁ?軽音楽、イージー・リスニングの類いだったと思います。家には父のオーディオ・ルームがあったので、小学生のころこっそり入ってレコードをあさったりしていたんですけど、そこにあった60〜70年代の映画音楽が子ども心に・・・感動というより、音楽へのきっかけは、そのへんにあったような気がします。小学生としては、洋楽のレコードを聞く機会は多かったほうですね。当時自分で持っていたレコードは・・・日本の歌謡曲です。


Q: 楽器や演奏に興味を持ち始めたのは?

T: 中学に入る頃、エア・チェックが流行っていてね、そのあたりから本格的に洋楽を聴くようになりました。いわゆる"Top40"とか。だけど、同時にTVでは「ザ・ベストテン」も見ているわけ。楽器に興味をもちはじめたものこの頃で、YMOを見て、短いけどスティック代わりに校旗の竹軸でドラムの真似をしたり、授業で使ったベニヤ板に鍵盤をマジックで書いてキーボードに見立ててみたり、家庭教師の先生にこっそりフォーク・ギターの3フィンガーを教えてもらったり・・・。中学卒業のイベントでバンドを組んで、チープ・トリック、レインボー、ディープ・パープル、ナックなんかを歌っていました。

そのころはまだドラムに出会っていないんです。大学でバリバリ、ドラムをやっている友達のお兄さんを見て「あんなの絶対にできないなあ」と思っていたのが中学時代です。




ドラムとの出会い


Q: ドラムとの出会いはいつですか?

T: 高校に入ってギターをやりたくて、ブラスバンド部に入ったんですが、すでにギターのうまい先輩がいて、「お前のポジションはない」と。その先輩がドラムもすごくうまかったので、教えてもらって、高校1年生で初めてドラムを叩きました。


Q: 初めてドラムを叩いたときの感触は?

T: 最初はもちろん、手も足も、思うように動かないんだけど、始めたばかりのころって楽器でも他の習い事でも、急速に上達するものなんだよね。教える人がちゃんといて、習ったことを発揮できる機会があると、3ヵ月間くらいは上達の曲線がすごい角度で伸びていく。で、楽しいから続けるじゃない?最初のころ、もどかしさを感じても、本当に一過性のものなんだよね。

ただ、そのうちバンドで曲をコピーするのに、ドラムのパートを耳で聴き取ろうとしても、なかなか聴き取れない。特にバスドラムの音がベースと重なっていたりして。そこがひとつ、つまづく場所だったんだけどね、とても苦労した記憶があります。



ルーツ〜フランク・ザッパ


Q: 鶴谷さんにとって、ベース、ルーツになっている音楽はなんですか?

T: フランク・ザッパ。高校のときバンドの先輩からダビングしてもらった曲。いまだに詳細不明なんだけど、ドラムは間違いなくテリー・ボジオ。完全に感化されまして、楽器の各パート全部口ずさめる位まで覚えました。変人と見る人もあるけど、ザッパはねぇ、ワーカホリックですよ。時代々々で変動が大きくて、見方もさまざまで、一刀両断に「フランク・ザッパかく有りき」とは語れない。あれほど支離滅裂にいろんなことを頭の中で考えて、同時多発的に実践していた人はいないと思う。未だにもう、すごく精神的な心の支えですね。

本当にすごい人です。生のコンサートを留学中(カナダ)に見たんだけど、しばらくショック状態が続きました。あの複雑で難解な音楽を全員暗譜してて、それをとんでもないステージ・パフォーマンスでやるわけ。しかも夜9時に始まって12時半まで3時間半ぶっとおし。そのエネルギーもそうだし、クリエイティビティもすごい。時代に対する反骨精神というか、クリティシズム、シニカルな部分も。マジョリティー(メジャー)に対するすごく辛らつな揶揄とか、すべてが僕にとって魅力。

あの人は突然、何を言い出すかわからないじゃない?でもそれが結構ブルーズマン的だったりして面白いんだよね。曲の途中で突然思いついたら、ファンクの曲のリフにパッと変わったりしてね。元々こういう仕組みだと思った人もいたかもしれないけれど、実は全くのハプニングだったりするところが、ほんと痛快なんです。

もう亡くなってしまったけれど、ドラマーとして、特にいろんなことをやりたいドラマーにとって、「あの人の音楽をやる」ということは、本当に冥利というか、もう至福の極みだよね。出来れば、だけどね・・・。


Q: 今、思い起こして「魂を揺さぶられた音楽」というのはありますか?

T: いつも、今でも演奏するたびに「音楽」に揺さぶられつづけています。どんな音楽も特別。「音楽」に甲乙つけられないけど、特に高校時代、学生時代に聴いた音楽にかなうものはないかなあ。いわゆるゴールデン80's。80年代ってすごくポップでキャッチーなメロディが多かったんですよね。ポリスやジャパン、バービー・ボーイズは今でも好きでよく聴いてます。

Q: ここ数年では・・・

T: 住友紀人の「Time Wanderer」、ゴスペル音楽、映画音楽ではアラン・ルドルフの「Equinox/堕ちた恋人たち」とか。今年に入ってからよく聴いてるのはブラジル音楽、A.ピアソラ、クラシック全般。それとB.バカラック&E.コステロのアルバムで「ペインテッド・フロム・メモリー」。

Q: ザッパでは?

T: ・・・「ザッパ・イン・ニューヨーク」


鶴谷流ドラム習得法

Q: ドラムは誰に習われたのですか?

T: 誰かの弟子やスクールという道が、目的を達成するための最短距離だと頭では分かっていても、僕には一種平凡な多数派の生き方に思えてね。如何に自分で回り道するかが、自分の個性を作るポイントだと思った。どれだけ人と違う道を歩くかが、自分の個性をよりカラフルにする決め手だ、と。

だから、特定の先生に習うより、たとえば(スティーブ・)ガッドにしても、(ジェフ・)ポーカロにしても、いろいろなミュージシャンが海外から来るでしょ。なかなか会えないものだけど、その人たちに個人的に話を聞いて習ったほうが、自分がより個性的になると思ったんだ。


Q: 実際にレッスンを受けた海外ミュージシャンは?どんなレッスンなんですか?

T: ほとんど日本でだけど・・・オマー・ハキム、デニス・チェンバース、スティーヴ・スミス、ほかにもビバップのドラマーでアダム・ナスバウム、ラルフ・ピーターソン・JR・・・。テリー・ボジオには、会って話せただけで天にも昇る思いでしたね。習うという気持ち以前にアイドル意識のほうが強くて。(ジェフ・)ベックのマーシャル・アンプの裏で声援送りながら、ひざ抱えて拝聴してましたよ(笑)。あとビル・ブラッフォードにも教えてもらったし・・・。

ウィリアム・ケネディーはスタジオでレッスンしてくれた。ドラム・セットを2台組んで、4小節ずつドラムのフレーズをトレードするんだ。そうすると自分の叩いたフレーズを向こうはイントネーションとかニュアンスを変えて演奏するわけ。「あ、こういうふうにも出来るんだ」ということを、それはもう言葉の倍くらいでサジェスションしてくれる。ものすごく有意義だったよ。


Q: それは理想的ですよね。なかなか出来ない事であるとも思いますが?

T: うん。でも話するだけでもほんとにいろんな事が学べる・・・そう考えると東京ってすごく便利なところだよね。いろんな人が向こうから来てくれるわけだから。


Q: インタビューから学べることも多いのですか?
(鶴谷さんはドラム・マガジンやジャズ・ライフなどでインタビュアーとして、多くの海外ミュージシャンに取材されています。)

T: デイヴ・ウェックルやヴィニー・カリウタの取材を通してのセミナーは、自分としてもすごく勉強になった。ほかにも会って話しを聞いてためになったのは、ピーター・アースキン、サイモン・フィリップス、ゲイリー・ハズバンド、チャド・ワッカーマン、ロイ・ヘインズ、ジャック・ディジョネット、グラディ・テイト・・・インタビューしたドラマーやパーカッショニスト、ミュージシャンすべてに感謝してます。

レッスンしてもらう時は、インタビューのアポイントをとった後、30分でも1時間でも、時にはレッスン料を払って受けていました。その人がやっていることをとにかく吸収することが最大の財産だと思っていたから。クリニックやセミナーでは時間も限られているし、その中で教えることは、ある程度決まっているじゃない?僕が知りたいのは自分のドラムに活かせること、もしくはその人が実際にどうやっているのか、自分で見極めることだから、それはもうマンツーマンでやる以外にないよね。


Q: とても貴重な経験ですね。

T: そうですね。今の自分に活かされていれば良いんだけど、やっぱり時間が経つと我流になっちゃうなぁ(笑)。スポーツの世界ではプロがレッスン・プロに指導してもらうことはよくあると思うんだけど。日本人では、パールの夏季合宿でつのだ☆ひろさんのセミナーに参加したのがとてもためになりましたね。


Q: 鶴谷さんご自身、セミナーもされていますが、人に教える時にはどのように?

T: ケース・バイ・ケースです。相手にもよるし、与えられた時間、どれぐらい親密にできるかによるんだけど、マス・ミーティングでは特に、僕は自分が今まで経験してきたいろんなドラマーとの話を紹介することに努めてます。「あの人はこういうふうにやってましたよ」と。そういうメディアになるのも自分の役割だと思います。それと楽器については詳しく話したいと思う。

個人レッスンの時は、できるだけ自分のやっていることを解りやすく説明します。そして実際に演奏してもらって、自分とはどこが違うかを教えてあげる。本人が気づいていないところを、客観的にみてアドバイスすることが、教えるというかヘルプになると思うから。レッスンはミューチャルなものだから、個々の状況で千差万別。それと、みんなが知りたがっているドラミングの「秘訣」は、むしろ共演者との係わり合いの中における相対的なものだと思いますね。



ドラム奏法〜筋力と脱力のバランス


Q: ドラム奏法について伺います。ドラムに限らず、楽器演奏にはポイントとして脱力ということがあると思いますが、必要な筋肉(筋力)と脱力のバランスについて、どう考えますか?

T: たとえば、「脱力していい音を出す」という方法があったとしたら、自分はそれから目を背けてきたんですよ。その時がくれば、自分が「力を使った音を出したくない」、と思う時がくるはずだと。そうしたらその時に、その音が出るのであって、「意図的に最初からそれを作るというのは真の意味の"自分の音"じゃない」と思っていたんですね。

「力を使わずに叩く」という考え方も分かります。全く、というのは無理かもしれないけれど、音の抜ける(プロジェクション・)ポイント=打点とタイミングさえわかっていれば、そんなに力を必要としない。マスターといわれる人たちはそれを体得しているから、60歳、70歳になっても叩ける。今、ロック・ミュージシャンの中ではチャーリー・ワッツがもっとも高齢の方だけど、ジャズだったらエルヴィンとか70歳代でもいるし、ブルースマンだったら80歳代でも現役で叩いている人がいるかもしれない。年をとっても叩けるということは、そういうことなんじゃないかな。







叩く激しさと音色

Q: たとえば怒りを感じさせるような音を出そうと思ったときは、そういうふうに感情移入して叩くのですか?

T: パンクだったら、もう8分音符を、「とにかく心底力強く、死ぬほど叩き続けたい」と思うから、ああいうビート、ああいう音楽になるのであって、その気持ちの根底には社会に対する怒りなんかがありますよね。僕はでかい音だす時は本当に怒ってると思いますよ。逆にリラックスした曲の演奏中でも、「いま」自分の中に激しい気持ちが沸き起こったら、もう渾身の力を込めて叩くだろうし、それが汚い音だったとしても・・・僕は、「それを良し」としたい。感情と発音はほぼ同時ですから。


Q: 気持ちと同時に音色があると感じますが、音色の選択というところではどうですか?

T: 音色に関しては、「この曲(この場面)だったらこの音色」という考え方なので、すべて「必要が先」です。その時々で、人間、成長というか生命のフェイズがあるじゃない?若いころはエネルギーに満ちた時代なら、そういう強い音が多くなるでしょう。同じ曲でも年をとってからやってみると、若い頃ほどはいろいろなことに怒らなくなっていて許せるものも増えたり、同じ怒りの表現にしても、言葉の言い回しが変わったりとか、もう少し婉曲な表現になってみたり・・・。



ドラマーとしてのプレイスタイル

Q: 鶴谷さんのプレイは、パワフルなロック・ビートになるほど、より輝きを増すように感じますが、一方でとても印象的だったのは、ppp〜ppの間での表現力の豊かさです。繊細な強弱の表現に対するこだわりというものはありますか?

T: ppp〜ppの中の表現って、例えばクラシックやジャズでは編曲上よくあることだと思います。それをたとえばファンクのライブで突発的・即興的にやったら目立ちますよね(笑)。ひょっとしたら聞こえないかもしれない。でも、何回かやっているうちに、あの人は意図的に何かをやっている!と周りが気が付いたときに、何かを感じますよね。その辺は時として作為的かもしれない・・・。

ピアニシモに対するこだわりは強いと思います。自分を含め、人の気持ちを動かすのに不可欠な要素ですから。おおよそドラマティックな要素って、他のどの楽器と比べてもドラマーが一番大きいし。


Q:さまざまな曲をプレイする中で、一環して保とうとする自分なりのスタイルというのはありますか?

T: 形状記憶合金みたいに、スタイルを保とうとする"見えざる力!"に対して敢えて反発しよう、という欲望があるかも知れない。

いろいろとやってくるうちに、「自分はこういうスタイル」と思った時点で、成長が止まるような気がしたんです。向上心が頭打ちするような気がして。だから、なるべく出来ないことにチャレンジし続けようとする自分がいる。極端な例ですが、「ハード・ロックを無茶苦茶叩いた後、次はフェザー・タッチのブラシでスイング」みたいな・・・そんなことができてもあまり得にはならないんだけど(大笑)、あえて挑戦しようとする自分が、今でも少しいるんです。困ったことに(苦笑)。

たくさんの共演者と出会って、僕はその中でカメレオンみたいに自分を変えるのが、全然いやじゃなくて、「自分はこうでなくちゃイヤ」「この音でないと叩きたくない」というのは無いんです。この先もずっと、このままでいると思う。

一昨年、ソウルでボブ・ジェームスとトニーニョ・オルタと一緒に演る機会があったんですが、トニーニョの、ブラジル独特のシンコペーションの効いたサンバの時は、僕はトニーニョ・バンドのドラマーになろうと、その瞬間に思うんですね。方や、ボブのすごくレイド・バックした、「フォー・プレイ」調の曲では、できるだけアフター・ビートのポケットをためて、とか・・・。集まったメンバーでひとつの曲を作る・・・その時に自分がなにをやるべきか、何が必要か、を考えたら、自分の(スタイルの)ことなんか、拘らなくなってくるんです。

一方で、いろんなミュージシャンといろいろな曲をやっていても、スタイルは大まかなところでは変わらない人もいますよね。でもそういう時ってアレンジャーもメンバーも彼らに対するリスペクトを元にした演奏になっているじゃない?たとえば、強いファンクのバックグラウンドを持ったドラマーとやっているんだから、アタマのダウン・ビートはしっかり提示しよう、とかさ。それって、肝心なことだと思うんですよ。でね、相手に対する強い我と、相手をリスペクトする気持ちの両方があって、ちょっとだけ尊敬の念が勝ったときに、グルーヴするらしいんですよ(笑)。



ビートとグルーヴ感


Q:グルーヴというお話がでましたが、良いグルーヴが生まれためには何が必要だと思いますか?

T: 強い我を持つことと、相手を敬うことの2つ!(笑) グルーヴはタイムだけの問題ではなくて、その時々で共演者のバイオロジカル・クロックって皆違うんです。やる曲によっても違うし。同じバラードでも限りなく遅く、"もたる"に等しいところをずっと続けながら、曲全体をテンポとしては60をキープする、みたいなこともある。つまりは人の音をよく聴くことかな。

僕は音楽でも何でも、「自由なのがいいなぁ」と思うので、相手が自由に演奏することも尊重したいんです。要はその人にどれだけ、いろんな音楽を受け入れられる許容量があるか、ということですね。お互いに聴く耳をもって、その場でその時に演奏される曲を良い作品にしようという、その努力する心さえあったら、良い音楽になると思う。


Q: やっぱりアンサンブルが大切なんですね?

T: そうだよ。絶対そう。そもそも「音楽は会話だ」、ともよく言われるけど、ドラムはずーっと叩いてるでしょ。てことはこっちは話しっぱなしなわけ。会話だったら、「うざい、お前いいかげん黙れ」とか言われそう(笑)。人の話を聞きながら同時に自分の意見を常に発言している状態、それがドラム・プレイなんですよ。

でね、人の音を聴けと言われて、聴き過ぎちゃうのが拙いんだよね。相槌しか発言していない状態。それでは受動的で上位の創造性は生まれてこない。適当に聴いているようでシカトしてるような感じがいいのかも。

人の音を聴くことによって、そのソリストが次にどんなフレーズに持っていこうとしているのか、曲の展開を先読みしなさい、と言うことでもあるんだ。これもやはり音楽的な素養が豊かでないと、聞こえているはずのフレーズも馬の耳に念仏になっちゃうね。

・・・来週、オペラ歌手のコンサート(*)に出るんです。クラシックなので、原曲にはパーカッション的にスネア・ドラムやシンバルが入ってる程度なんですが、それをジャズ系のアンサンブルで、ドラム・セットでやるんです(通常はオーケストラやピアノ伴奏がつくところをバンドが演奏する)。歌が主導だし、場所によっては毎小節、長さが違ったりもします。面白いですよ。
*) 12月18日に行われたオペラ歌手 丹羽勝海氏のライブ。このインタビューは12月12日に収録しました。


Q: クラシック独特のタイム感、間、の取り組み方とは違いますか?

T: クラシックとジャズ・アンサンブルの違うところは、演奏者それぞれがみんな同時に指揮者でもある、と言うところかな。決してドラマーだけじゃなく、ね。

でも、ジャズ・バラードやポップスにしても、サビに行く1小節前に予定になかったリタルダンドがかかるのは、時として歓迎されるべきことなんじゃないかな。そしてその時、それが閃いてしまったのであれば、ちゃんとそれが成立するように、みんなに誘い水を向けるのがドラマーの役目だと思うんだ。

ただ、すごくスローなバラードでも、みんな自由にやっているようで、実は(4拍子なら)ちゃんと1小節間に4分音符4個分のメジャーを持っていて、その中で、今ここが一番正しい、と思われる軸の近似値を常に計算しているわけ。"揺れ"の楽しみ方、みたいなね。面白いですよ、それは。速いテンポの曲でも、ダンゴになったフレーズが続いたら、ひょっとしたらクロックワイズの拍を飛び越えてしまっているかもしれないんだけれど、でもフレーズの辻褄として、合うべき小節の頭はここだろう、というところで狙いを定めてドンって合わせられるのって、やっぱりデジタルなフレームじゃないと思う。



音楽を演奏するということ


Q: 鶴谷さんにとって、音楽を演奏するということは?

T: 恐らく、自分を表現しているだけです。自分が自分らしくあるために音楽をやってきたと思うので。たぶん、これからも。

聞いた人が時にハッピーになったり、怒りを彷彿させるような刺激を感じるかもしれないけれど、どう感じてもらっても、まったく自由。本当に幸せな気持ちになったといわれれば、それを聞いて嬉しいし、あれはああいうビートでやってほしくなかった、と思ってもらうのも自由だし。僕もそんなふうに自由に聴きたいもの、人の演奏を。

ただ、ドラムだけで自己の芸術を表現できるか、というと限りがあります。それはやりがいのあることだよ、アートとしては。とても評価されるべき作業だと思うけど、僕はやっぱり、他に合奏するメンバーがいて、みんなで一緒に音楽を作って、伝える、表現するということに、創造することの喜びや生きがいを感じる。

いざ自分が作家として何か表現したい、自分の気持ちを対外的に発しようとするならば、わりと内省的な、内面の作業が多くなると思います。根が暗いから(笑)。



オール・ラウンド・プレイヤーと言われることについて


Q: さきほどフランク・ザッパがルーツというお話がありましたが、鶴谷さんご自身、ジャンルに囚われない活動をされているのは、彼の影響もあると思われますか?

T: もちろん。彼の曲にはジャズやロックはおろかレゲエから現代音楽、交響曲までありますからね。それらを一まとめにして同じステージで演奏するところが痛快です。ただ、ジャズの中にもビバップからモダンから、細かくありますよね。一方でザッパは自分なりのジャズ・サウンドを有していたと思います。ロックでも、時としてへヴィ・メタルのリフが出てきたりしますが、全体のサウンド像は「Zappa」というジャンルです。

自分について言えば、親がジャズ・ドラマーというような、強いバック・ボーンが無い限り、一種目を看板として掲げること自体が不条理だとも思うんです。ルーツがザッパならば、まんべんなく、いろんなことをやるのも筋なんじゃないかなぁ、と思うわけ。

あとキー・ワードとしては、ダンス・ミュージックと歌もの。こう言えば、ジャズとかロックって言わなくてすむじゃない?みんな入っているから(笑)。やっぱり、歌がよければ、なんでもいいんだな。その演奏形態やジャンルは。


Q:ミュージシャン鶴谷智生のスタンスを自己分析すると?

T: それぞれのアート・フォームに興味があってリスペクトがあるから、練習もしてきた。いろんな音楽を聴いているうちに興味が沸いてきて、それぞれをさらに追求し続けたい。ここが到達点でもないし、まだまだやることも多いし。

そういう意味でも、僕はすごく遠回りするのが好きだから・・・。自分の技量や感性が特別に秀でてるとは思ってないです。個体が違えば個性も異なる、ぐらいの感じだけど、不器用さ=個性と思えてきたような気がする。「どこにも属さないでずっといるなあ」という存在でいたいんですけどね(苦笑)。



Q:海外も含めて、これから共演してみたいアーティストはいますか?

T: 好きなアーティストでいま思いついた人たちを挙げてみます。共演なんて、とてもとても・・・。

エイドリアン・ブリュー / Adrian Belew
エルヴィス・コステロ / Elvis Costello
エヴリシング・バット・ザ・ガール / Everything But The Girl
マーク・アイシャム / Mark Isham
ジョニ・ミッチェル / Joni Mitchell
ディヴィッド・シルヴィアン / David Sylvian
デイヴィッド・トーン / David Torn
ジノ・ヴァネリ / Gino Vanneli


2004年、そして今後の抱負



Q:今後の抱負、やってみたいと思われることはなんですか?

T:ドラマーとしては、パーカッション奏者だけを集めて、打楽器アンサンブルをしてみたい。クラシックでパーカッション・アンサンブルの楽譜が出ていますが、それは挑戦してみたいな。

あとは、コジカナツルをはじめ、いくつかやっているバンドをどんどんやっていきたい。時にはゲストを交えて。あとは遅々として進まないけど、なるべく自分の作品を増やしていきたい。


Q:ご自身の作品の予定は?

T:作曲のときはメロディのモチーフを最初はギターかピアノで、まとめるのはコンピューターで作曲するんだけど、友人の住友紀人さんが、僕の曲のアイデアを完璧に形にしてくれる。具現化以上のもの・・美化してくれるんです(笑い)。そういう相棒がいるわけですから、彼とコラボレートして今年こそは、と考えている2人のユニットがあって、それをCDという形にできたらいいなぁ。

CDということでは、「コジカナツル」が4月に2作目をライブ・レコーディングするし、「インフィニット・サークル」も次を作ろうとしている。2月には「上野耕路アンサンブル」のレコーディングがあるし(6/23発売)、「南佳孝」さんの新譜にも参加します。「バカボン(鈴木)」のセッション・バンドもレコーディングしようとしている。「sclap」もできればいいんだけど・・・。
* 「小野塚晃トリオ」のレコーディングも初夏に予定が決まりました。


Q: とてもカラフルですね。どのバンド、ユニットも、今後の展開が本当に楽しみです。今日はお忙しい中、どうもありがとうございました。


* 鶴谷さんが主宰するイベント、“Live tryst 2004”の開催が決定しました。
詳しくはこちらをご覧ください →
http://www.teecrane.net/livetryst.html



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幼少時代の思い出から、ドラミング・音楽観について、とても丁寧に語っていただきました。あらゆるジャンルで活躍する鶴谷さんにとっては、フランク・ザッパをはじめ、出会った音楽全てが、強力なバック・ボーンになっているように感じました。(インタビュー:2003.12.12)

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Interview & Photography by Asako Matsuzaka
Special Thanks to ラ・リオン, JIROKICHI


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