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LIVE REPORT

Toshimi Session

22nd July 2004 at PIT INN Roppongi


フレットレス・ベースの第一人者、永井敏己が現在のフュージョン・シーンの立役者達と展開するハイ・テンションなステージ




六本木ピットインの想い出


毎回多彩な顔ぶれで楽しませてくれる「Toshimi Session」だが、今回のメンバーはバイオリンにG-Clefでの活動で知られる落合徹也、キーボードには自身のバンドNervioの他PRISMのサポートメンバーなどで活躍し、アナログ・シンセサイザーの妙技を賞賛される新澤健一郎、そしてドラムスにはTHE ALFEEのサポート・ドラマーとして女性ファンも多い長谷川浩二である。

一曲目はパーカッシブなり−ドからへヴィーなリフへなだれ込む「Patriarch Shuffle」。ベースとドラムスのタイトな4ビートにエレクトリック・バイオリンのジャジーなメロディーが乗ってくる。続いて新澤の乗りの良いフレーズとエレクトリック・バイオリンとの味わいあるフレーズの交換が繰り広げられると、永井の硬質なベースラインと好対照に奥行きのある演奏が興奮を誘う。落合のワウを効かせたバイオリンの音はDidier Lockwood(ディディエ・ロックウッド)を思わせる。

続いて長谷川のカウントで始まるアップ・ビートなフュージョン・ナンバーは落合の作曲による「滝廉太郎」。アコースティック・ピアノとエレクトリック・バイオリンのユニゾンがスリリングな展開を予感させる、曲名とは裏腹にハードな曲である。駆け巡るドラムスがロックスピリッツあふれる豪快なビートを叩き出し、音数の多い、しかもメロディアスないかにも永井らしいベースソロが炸裂する。新澤のアコースティック・ピアノは流麗なフレーズを聞かせ、そして激しさを増して行くあたりはマッコイ・タイナーを連想させる。曲の中盤の緩やかなパートではヴァイオリンのレガートなフレーズが優雅さすら感じさせる。ツイン・ペダルのバス・ドラムを駆使しての高速プレイに会場は多いに沸いた。

しばしのトークをはさんでブルージーなアコースティック・ピアノで始まる難曲は新澤の「知恵熱」である。7拍子のテーマのあと、バイオレントに激しいドラムフィルを配して8拍子のジャム・セッション風な中間パートへと移る。新澤がシンセサイザーでベースラインを取る上に永井のベース・ソロが冴え渡る。リズム・ブレイクの後は7拍子に戻ってバイオリン・ソロをフィーチャーするが、これがラテン風なピアノの上をマハヴィシュヌ・オーケストラのジェリー・グッドマンもかくやとばかりの複雑なメロディー・ラインを見事に弾き上げる秀逸なもの。こういった難曲をグルーヴィーに弾くバンドの技量はさすがである。

次の「Blindside 360"」はスローテンポにミステリアスな雰囲気で始まる。不協和音的とも聞こえる独特なハーモニーを持つメロディー・ラインのバイオリン・ソロをフィーチャーしたテクニカルな曲である。サウンド・エフェクト的なシンセサイザーを交えながらの新澤のエレクトリック・ピアノ・ソロは、イタリアの名映画音楽家、エンニオ・モリコーネを彷彿とするようなムード・メロディーを叙情的に弾き流すタイプのもので、なにやら70年代のプログレッシヴ・ロックの薫りが漂ってくる。

ファースト・セットの最後は永井の「さわやかな難曲」、Pryme Tymeのアルバムに収録されている「An Echo」である。キメやリズムチェンジの多い曲ながらグルーヴ感をも出しつつ、スピーディーに演奏するバンドの力量が際立つ。本来はギターを加えた5パートの曲だが、今回はキーボードが2パート分を受け持つ形である。新澤の奏でるムーグ・プロディジーのソロが情感を持って響く。緩やかなベース・ソロが入り、曲の広がりを演出するあたりは永井敏己の深い音楽性を感じさせて余りある。それにしても始めから最後まで重層的なリズム構成ながらグルーヴ感を失わないのはさすがという他ない。

セカンド・セットの一曲目は落合の曲で「Pinch」。4ビートのドラムスで始まる比較的ストレートなフュージョン・ナンバーである。落合はエフェクターを駆使し、エレクトリックバイオリンによるシンセサイザーのような音色でメロディーをとる。新澤はオルガンでソロをとり、好対照を見せる。永井もハーモナイザーを使った音でキーボードとユニゾンで弾いているかのようなソロを聞かせる。後半部はベース、バイオリン、キーボードのユニゾンでテーマを奏で、ブレイクの後バイオリンとベースの絡みを見せながらエンディングへ。この曲は落合がアマチュア・バンドでベースを弾いていた時、ライブに合わせて急遽作った曲だという。

次は新澤が99年に作った軽めのポップ・チューン(といってもこのバンドにしては、という意味だが)で「Bagle」。ワウの効いたバイオリンの音が曲調にマッチしている。小洒落た感じもあるムーグ・ソロが楽しい。永井のベース・ソロはいつになくユーモラスな感覚を見せる。長谷川は楽しげに4ビートを刻んでいる。ベース・ソロが佳境に入ると永井らしいテクニカルな面が前に出てくる。後半で見せるバイオリンとキーボードのユニゾンのフレーズはなかなか凝ったものである。

ここで長谷川浩二のドラム・ソロをフィーチャーする。スネアを中心としたストレートな出だしから徐々にシンバル系を入れてゆき、連打するバス・ドラムの激しい嵐へと展開するロックスピリッツあふれるソロである。後半はタムを中心とし、やはり激しい展開で会場を沸かせてくれた。そしてドラムソロの激しさの余韻を残しながら、ベースがドライブをかけ、バイオリンとキーボードがユニゾンでスリリングなフレーズを展開する「Darkforce in my Eyes」へとつなげて行く。リズムは緩急を巧みに交差させながらテンションを保ったもので、曲作りの巧みさを感じさせる。曲はバイオリンとアコースティック・ピアノとの掛け合いでヒート・アップしてゆき、ドラムスが応えるように激しいフィルを入れたのち、緩やかなパートをはさんで再びハード・フュージョンのパートへと移行して行く。そして落合の流れるようなバイオリン・ソロを配して怒涛のエンディングへと一気に突き進む。

ここで前曲の激しさと対照的に、美しいバラード「こもりうた」が演奏された。これは新澤の作品で、リリカルなピアノに導かれて始まる。バイオリンのソロに続いてアコースティック・ピアノがジャズ・スケールで流麗なフレーズを展開し、ベースが絶妙なサポートを加えるが、ピアノの低域部と絡んでハートウォーミングな曲調にクールな表情を与えている。

次の曲は「Spice Love」、スパニッシュ・フレイバーのハード・フュージョンである。グルーヴするベースに乗ってバイオリンとキーボードがソロを展開する。スロー・パートでのベース・ソロは永井ならではの見事な構築的な展開で魅了する。ハーモナイザーを使ったこのソロのバックで、盛り上がりに合わせて的確にリズム・サポートする長谷川のドラミングにも注目したい。続いて新澤のムーグ・ソロ。この人のムーグは実に上手い。グルーヴするベースとドラムスに乗って駆け巡り、ヤン・ハマーも裸足で逃げ出しそうである。続くバイオリン・ソロもよく構成された展開を見せる。曲は短いリズム・パートをはさんでテーマへと戻り、大団円となるが、この流れは実に圧巻である。

バンドは湧き上がる歓声に送られ、そして再びステージへ戻る。Tohimi Sessionの六本木ピット・イン最後の曲はやはりこの曲、「Dance of the Harlequin」。いつもより速めのテンポで駆け巡るテクニカル・ハード・フュージョンである。バイオリンとベースがユニゾンで奏でるテーマが小気味良く決まる。ファズベースのソロは迫力満点のもので、永井の技巧派ベーシストとしての本領を遺憾なく発揮したスリリングなソロであった。続いてはブルージーなバイオリン・ソロ。これもラスト・ライブを飾るにふさわしい秀逸さだ。バンド全体のテンションも最高潮に達したところでテーマに戻り、そしてアコースティック・ピアノのソロがクールにスロー・ダウンしたリズムから入る。このソロの次第に佳境に入って行く様は味わい深く、またスリリングだ。曲は再びテーマに戻り、ベースとバイオリンのユニゾンのフレーズで最高に盛り上げてエンディングへと持って行く。

毎回違った顔ぶれで少しずつ違うアレンジを効かせてくれるToshimi Sessionだが、今回はいくらかロックよりの演奏でシャープなリズム感が心地よいものとなった。六本木ピット・インでは今回が最後の演奏だったが、これからも場所を変えて続けて欲しいものである。




Musicians:

永井敏己(ベース)
使用機材)
ベース:P-Project Original Model・Fretless (Red)
エフェクター:DIGITECH RP-20 (Multi-Effects Processor)
アンプ:EBS GORM ET-350 GET-210 (2台・ステレオで使用


落合徹也(エレクトリック・バイオリン)
使用機材)
T. F. Barrett(特注)


新澤健一郎(キーボード)
使用機材)
キーボード:YAMAHA Grand Piano C5(PIT INN), YAMAHA MOTIF ES7 w/PLG150-AN, Moog PRODIGY, S.C.I. Prophet5
音源等:YAMAHA MOTIF-RACK w/PLG150-PF
その他:MACKIE MS1202VLZ(ミキサー), BOSS VF-1(マルチエフェクター...Moog用), KORG DTR-1(チューナー...アナログシンセ用)
ETA PD9(電源モジュール), JBL EON10G2 (パワードモニター)

長谷川浩二(ドラムス)
使用機材)
TAMA Starclassic Maple:(kickのみArtstar)/26"×16".10"×8".12"×8".16"×16" 14"×6.5"
Zildjian Cymbals/A Zildjian.Z Custom.ZXT TITANIUM


< Set List >

1st Set
1. Patriarch Shuffle
2. 滝廉太郎
3. 知恵熱
4. Blindside 360°
5. An Echo

2nd Set
1. Pinch
2. Bagle
3. Drum Solo - Darkforce in my Eyes
4. こもりうた
5. Spice Love

Encore)
Dance of the Harlequin

Report by Tatsuro Ueda
Photograpy by Chikako Ozawa
Edit & Design by Asako Matsuzaka
Special Thanks to PIT INN Roppongi


六本木ピットインの想い出


※メンバーのみなさんに六本木ピットインの思い出を語っていただきました。

永井敏己
初めてステージに立ってから早十数年、「TOSHIMI SESSION」を始め、数々のバンドやセッションでのライヴは、数え切れないほどです。それだけに、ホームグラウンド的な感覚だったので、今回の事は非常に残念に思っています。一日も早い「復活」を望んでいます。

新澤健一郎

7/18(PRISM LIVE)にも申し上げた通り、六本木PIT INNは私にとってとても大切な場所でした。今日は、私の六P仕事納め!一瞬一瞬を、味わって過ごしました。今日の最後の出演の機会に、私の初期の作品、学生時代に書いた「こもりうた」を演奏出来たのは、感慨深いものがあります。ありがとうございました。

長谷川浩二
スティーヴ・ガットが好きだった中学生の頃、あれは確かSTEPS公演の時だったと思います。スティーヴのサインがほしくて色紙を持ってPIT INNの前でスティーヴを待っていました。するとそこへ飯倉の交差点でタクシーから降りるスティーヴ発見!色紙を持って、ペンも持って、前日に中学の英語教師に何て言えば良いのか教えてもらって練習してたのに、ただただ目がスティーヴを追うだけで一歩も足が前に動きませんでした。スティーヴがPIT INNの階段に消えていった時、ハッと我に返り走って追いかけましたが時既に遅し(涙)
声を掛ければ届いた距離だったのに、固まっていた中学生にそんな勇気もなく・・・。

ガックリ肩を落とし自宅で事の一部始終を家族に話したところ、翌日、父親の職場が六本木だった事もあり何と父親がスティーヴのサインを貰って来てくれたのです。当然 Dear Koji の文字が・・・、さらに冬のクリスマス前だった事もあり Merry Christmas の文字まで・・・。あの社交性ゼロで恥ずかしがりやな父親が冬の寒いPIT INNの前でスティーヴを待ち、英語で会話し息子のためにサインを貰って来てくれたのです。物覚えの悪い自分でもあの時の事は鮮明に覚えています。

そんな想い出・出来事のあった六本木PIT INNですから、自分にとっては夢のまた夢の舞台でした。月日が流れその夢の舞台に、スティーヴがいた舞台に自分が立った時。言葉では到底表現できない感動に包まれました。六本木PIT INNは自分にとって夢や感動、出会い、そして試練を与えてくれた場所でした。姿形は無くなってしまいましたが、巨人の長島じゃないですけど自分の心の中では永遠に不滅だし、永遠に夢の舞台です。

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