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Concert Report




ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 来日公演


会場:サントリーホール
2019年11月20日



ファンタジックでドラマティック
最高峰のベルリン・フィルは
情熱に満ちた熱演で深い感動を呼んだ




今回で23回目を迎えるベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の来日公演は、指揮者にズービン・メータを迎えて全国5都市で8公演を開催した。ベルリン・フィルは今年2月、長年に渡る芸術面での貢献への感謝の意を込めてメータに名誉団員の称号を授与している。プログラムは交響詩「ドン・キホーテ」(R. シュトラウス)、交響曲第3番「英雄」(ベートーヴェン)によるAプログラム、そしてブルックナーの交響曲第8番(Bプログラム)だ。この記事では11月20日にサントリーホールで開催されたAプログラムをレポートする。


第1部はR.シュトラウスの交響詩「ドン・キホーテ」。まず冒頭、フワッと羽が舞うかのような弦のピチカートに魅了される。ベルリン・フィルの素晴らしさは十分に解っていたつもりだったが、この一音だけで夢の世界に誘われたような気持になった。ベルリン・フィルは「ドン・キホーテ」をカラヤンをはじめ、様々な指揮者とともに録音しており、どれも流石と思わせる演奏だが、これほどファンタジーを感じたことは(個人的には)にない。これがズービン・メータの手腕ということなのか。この見事なオーケストラを自在に指揮する様は、まるでイマジネーション豊かな魔術師を見るようだった。

どこまでもクリアな弦の音色が隅々まで響き渡り、木管が柔らかく繊細なハーモニーを醸し出す。ティンパニーの深く鋭い打音、高らかに鳴り響く金管・・・磨き抜かれた個々の音色が集結したオーケストラサウンドが壮大で抒情的、滑稽でもの悲しさのある「ドン・キホーテ」の世界を創り上げていく。

この日のソリストはルートヴィヒ・クヴァント(チェロ)とアミハイ・グロス(ヴィオラ)。ともにベルリン・フィルの第一ソロ奏者だ。クヴァントは卓越したテクニックと豊かな表現力でリアルなドン・キホーテを描き出し、グロスは伸びやかな音色で表情豊かにサンチョパンサを演じる。チェロとヴィオラの聴きごたえあるアンサンブルに、透明感のある美しい第一ヴァイオリンの音色が加わり、それらがドラマティックに展開するオーケストラサウンドに包まれていく。まさに珠玉のオーケストラサウンドを堪能した。



休憩を挟んでの第2部はベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」。ベルリン・フィルのベートーヴェンというと厳格でカッチリとしたイメージがあるが、メータ&ベルリン・フィルの「英雄」は全く違った。サウンドとしては、どちらかと言うと丸みがあり、抑揚たっぷりで生気に満ち溢れている。その演奏は深く心に響くものだった。

とにかくアーティキュレーションの幅が広く、音楽性豊かな第一楽章。否が応でも高揚感が掻き立てられる。メータは巧みなアクセントポイントのつけ方で、より楽曲を際立たせていった。深い悲しみをたたえた第二楽章ではオーボエが奏する美しいメロディーが秀逸。そして軽やかなアップテンポにのって展開した第三楽章では、ダイナミックに展開するオーケストラサウンドがより深い感動を呼ぶ。弦と管による繊細な表現とダイナミックなサウンドが交互に顔を出す第四楽章では、最後、迫力にのある圧倒的なサウンドが会場全体に広がり大団円を迎えた。


この日は第2部から上皇ご夫妻が鑑賞されていたのだが、終演後は他の観客と一緒になって立ち上がられ、いつまでもアンコールの拍手を送られていた。

ベルリン・フィルを前にどんな誉め言葉も陳腐に聞こえるかもしれないが、この日の演奏を聴いて、「五感を刺激されるオーケストラ」だと思った。そして、どれほど激しい場面でも、そのサウンドは洗練されていて品格があるが、メンバーの音楽を表現しようとする情熱、気迫には凄まじささえ感じる。選び抜かれた実力者たちが名指揮者のもとで一体となって一心不乱に奏する。これこそがこのオーケストラが最高峰と言われ続ける所以なのだろう。

自主レーベル「ベルリンフィル・レコーディングス」からブルックナーの交響曲全集が発売。終演後、全集購入者を対象にメータ氏のサイン会が開催された


<プログラム>

R.シュトラウス:交響詩「ドン・キホーテ」Op.35
ベートーヴェン:交響曲第3番 変ホ長調 Op.55「英雄」

ソリスト(「ドン・キホーテ」)
チェロ:ルートヴィヒ・クヴァント
ヴィオラ:アミハイ・グロス

指揮:ズービン・メータ
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団


ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団来日公演:https://www.fujitv.co.jp/events/berlin-phil/index.html

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 ツアーギャラリー:https://www.fujitv.co.jp/events/berlin-phil/gallery.html


レポート:Asako Matsuzaka
撮影:Rikimaru Hotta


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