Concert Report
地下ワインセラー ヒロヤショップ～第32回ワインコンサート～
コントラバス 幣陵太朗 & ピアノ 秋元孝介
会場：地下ワインセラー ヒロヤショップ
2018年11月14日
最高の音楽に最高のワイン
感性豊かな2人のアンサンブルに魅了された一夜
コントラバス奏者 幣陵太朗とピアニスト 秋元孝介のデュオリサイタルが開催された。会場は三鷹にある地下ワインセラー ヒロヤショップ。当初、ワイン片手に演奏を聴く、カジュアルなスタイルのコンサートだと思っていたのだが、実際は前半がコンサート、後半は演奏者と一緒に自由に語りながらワインを楽しむ・・・という、とても魅力的な趣向のコンサートだった。これはヒロヤショップオーナー、榊原崇弘氏の「演奏者と観客が交流できる場を提供したい」という想いから実現したものだ。
当日のプログラムは「ベートーベン ホルンとピアノのためのソナタ ヘ長調 Op.17」からスタート。軽快なテンポにのって展開した第1楽章、会場は初期のベートーベンらしい溌剌とした雰囲気に包まれる。コントラバスの抑揚豊かなメロディーとピアノの美しく繊細なパッセージが見事な調和をみせていた。第3楽章への導入ともとれる第2楽章ではコントラバスならではの深みのある音色でゆったりとしたメロディーが奏でられる。倍音を含んだ低音の響が素晴らしい。より変化に富んだ第3楽章では2人のアーティストの表現も自由度が増す。幣の奏するコントラバスがよりつややかに、流麗に響き、秋元は随所にピアニスティックなプレイを散りばめて演奏。オーディエンスを引き込んでいった。
2曲目はフランク・フロドの「Sonata 1963」。ダブルベース（コントラバス）とピアノのために書かれた楽曲。第1楽章にはJAZZの要素がふんだんに取り入れられており、幣は場面場面でピチカート奏法を多用し、ウッドベースとして演奏。秋元のジャジーなプレイと相まって洗練されたJAZZサウンドを奏でる。印象派を思わせるハーモニー感で始まる第2楽章は、速いパッセージのユニゾンプレイなど、両者の卓越したテクニックも披露。独特な世界観の中で縦横無尽に展開した。
この日のラストはシューベルトの「アルペジオーネソナタ」。幣にとっては特別な想いのある曲だという。哀愁をたたえた美しいメロディーが深く響く。よく「チェロの音色は人の声」に似ている、と言われるが、コントラバスの音色は「心の奥底にある想い」が聴こえてくるようだ。特に重厚ながらも暖かみのある低音域と、艶やかに伸びる中音域の音色が素晴らしく、第2楽章ではゆったりとしたボウイングで奏した感性豊かなメロディが印象的だった。
切迫感のあるパッセージと伸びやかなメロディを存分に聴かせた第3楽章まで全身全霊で演奏する幣の演奏は圧巻で真に迫るものがあり、オーディエンスに深い感動を与えた。
アンコールで演奏された、コントラバス奏者ボッテジーニ作曲のエレジーまで、感性豊かな2人のアーティストによるアンサンブルに魅了された一夜だった。
コントラバスをソロ楽器として聴く機会は、まだそう多くはない。今回のリサイタルを聴いて、改めて楽器としての可能性を感じ、（チェロと比べても決してテクニック的に容易でないこの楽器で）卓越したテクニックで音楽性豊かに表現する演奏する幣の力量に感嘆した。また共演の秋元はとても洗練されたテクニックをもつ品格あるピアニストで、アンサンブルを構築するうえでのコントロール力が素晴らしいと感じた。
来年2月にはこの2人とエレーヌ・ブレグ（フルート）、クリスティアン・ナシュ（ヴィオラ）によるリサイタルが開催される（2月19日 白寿ホール）。ホールならではの新たなアンサンブルが生まれるのが楽しみだ。
幣 隆太朗 コントラバスリサイタル 2019 2月19日（火） 19:00開演（18:30開場） 白寿ホール（代々木）
詳細はこちら（ビーフラット・ミュージックプロデュース WEBサイト）
