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Live Report

藤井郷子カルテット


August 19, 2017 At Jazz Room Cortez




研ぎ澄まされた感性と豊かな表現力
独特の空間を創り出す藤井郷子の即興ワールド









水戸コルテスで開催された「藤井郷子トリオ」ライブに足を運んだ。「とても前衛的」と聴いていたのだが、果たしてまったくその通りだった。この日は新しいアルバム「Aspiration」の発売日で、その記念ライブでもあったのだが、CD内の曲は1曲のみでほとんどが新曲という、とてもフレッシュな内容となった。


オープニングから、そこは通常のライブとは違う空間だった。藤井郷子、田村夏樹、井谷享志の3人が思い思いに音を奏でるのだが、パッセージを奏でるインプロヴィゼーションとは違い、楽器のあらゆる部分を使って、その可能性を追求しながら音を出していく。

そんなある種、混沌としたイメージのなかで、藤井ががっちりと掴むように和音を鳴り響かせる。そのラベルを思わせるクラシカルなサウンドが印象的だった。


2曲目からヴァイオリンの太田惠資が参加。熱のこもったインプロヴィゼーションから情熱的なメロディーを奏で、エレキヴァイオリンに持ち替えてはピアノと即興による掛け合いをみせるなど、オーディエンスを引きつけた。またこの日は「日本人離れしている」評価されているヴォーカルも披露、独特のニュアンスをもつ歌声がオーディエンスを魅了した。


冒頭からインプロヴィゼーション、即興と表現しているが、このバンドはその大部分が即興演奏である。そしてその即興も感性のままに楽器を鳴らし、楽器だけではなく体を叩く音、声など、あらゆる手段を使って表現していく。

曲の組み立てもさまざまで、それぞれにテーマがあり、決めがあり、ルールがあるが、テーマ以外は流れのなかで互いにコンタクトしあいながら次の展開を決めている。

音楽には「その人の人間性が出る」ものであるが、このバンドの場合、「自身をさらけ出す覚悟」が必要なように思う。さらにその上で各メンバーが豊かな感性と高いレベルの演奏能力をもっていないと成り立たない。

前述した太田はスケールが大きい、多才なアーティストであるし、藤井は言うまでもなく世界的に評価されているピアニストだ。田村は安定したテクニックと豊かな表現力で聴かせ、井谷は確実なビートを刻む一方で変幻自在のドラミングだった。


最後まで感性に裏打ちされたアイデア合戦、遊び心もまじあわせながら、時に静かに、時に激しく、変化しながらエンディングへと向かっていった。









Members & Coments:

藤井 郷子 / Satoko Fujii (Pf)  藤井郷子オフィシャルサイト

藤井さんのコメントは文末の「ミニインタビュー」をご覧ください。


田村 夏樹 / Natsuki Tamura (Tp)  田村夏樹オフィシャルサイト

コルテスはとても演奏しやすい会場で、いつも気持ちよく吹かせていただいてます。
しかも凄く音楽に入ってくれてるお客さんばかりで、それもまたこちらのモチベーションを高めてくれます。
定期的に出演したい会場です。



井谷 享志 / Takashi Itai (Ds)  井谷享志オフィシャルサイト
今回もとても楽しく演奏させていただきました。 思い切りやらせていただける環境(リスナーの方々、会場、共演者)に
感謝いたします。 これからも精進いたします。 ありがとうございました。


太田 恵資 / Keisuke Ohta (Vn, Vo)  太田恵資オフィシャルサイト

* 太田 恵資さんのコメントは後日掲載予定です。



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藤井 郷子さん「ミニ」インタビュー

Q とてもアグレッシブなアプローチをされていますが、音楽で表現されたいことはありますか?

私の場合、音楽で具体的に表現したいことはなくて、「ただ音で表現できるものを表現したい」と考えています。「なにを表現したいか」と聞かれると困るのですが、「自分が一番ワクワクゾクゾクするもの」を音で表現したいと思っています。一番やりたいのは、「聞いたことがないような音楽を作ること」なのですが、いまだにそれは達成できていません。


Q とても即興性の高い演奏ですが、曲の構成はどこまで決まっているのですか?

具体的にどういう素材を使って、どうやって組み立てているか、というと、もうあらゆる手段を使っています。曲によってコード、尺、長さが決まっているものもありますし、それも取っ払ってフラグメント(わずかなモチーフ)だけが決めてあって それを発展させていくものもあります。あとはその場のディレクションで演奏するメンバーを決めたり、時にはジャズのアドリブの手法も使いますが、ほとんど場合、ムードだけ、スケールだけを決めるなど、何にもとらわれずに演奏しています。

こういったスタイルは「ジャズではない」と言われるかもしれないのですが、私自身は「スタイルではないところの精神性のジャズ」だと考えていて、そういった意味ではメインストリームだと思っています。


Q 今日のライブを終わっての感想を一言お願いします。

私たちの音楽は完全に即興が主体の音楽ですので、お客さんの力が大きいんです。お客さんが全くいないところでは、すごく作りづらい音楽だし、お客さんがどういうふうに感じて聴かれているか、というのがヒシヒシと伝わってきて、それをフィードバックしているので、「良い演奏ができるかどうか」は、無責任かもしれないけど(笑)、お客さんの力も凄く大きくて、そういった意味でも今日のお客さんは本当に素晴らしかったです!


レポート:Asako Matsuzaka
撮影:Megumi Manzaki
Spechal thanks to Jazz Room Cortez.


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