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REPORT
Jaco
Pastorius Big Band
March
23, 2004 - 2nd Stage BLUE
NOTE TOKYO
ビッグバンドと3人の人気ベーシストが競演する豪華なステージ。
夭折の天才ベーシスト、ジャコ・パストリアスの作曲家の才を俯瞰する一夜。
開演の7時を回ると会場はなにやらそわそわし始める。大人の男女の集うブルーノートのいつもの雰囲気からはいささか違った空気が流れている。それも無理ないこと、今夜のステージは多くのベーシストが師とも神とも崇めるジャコ・パストリアスの曲の数々を、今日のジャズ界を代表する3人のベーシストがビッグバンドともに演奏するという、なんとも豪華極まりないステージなのだ。その3人とは、Yellow
Jacketsの名手で現在はロベンフォードの片腕として活躍するジミー・ハスリップ、ラリー・コリエルやグローヴァー・ワシントン・ジュニアなどフュージョン界の大立者との競演で知られるジェラルド・ヴィーズリー、そしてソロと併せてベラ・フレック・アンド・ザ・フレックトーンズで世界的に活躍する技巧派ベーシストのヴィクター・ウーテンである。そしてビッグバンドはというと、ジャコ・パストリアスが71年に加入したバンド、Peter
Graves Orchestraのトロンボーン奏者兼コンダクターであったピーター・グレイヴスの指揮するジャコ・パストリアス・ビッグバンドである。
ピーター・グレイヴスのカウントで景気よく始まる
「Soul Intro / The Chicken」。ブラスの厚い音がこれからのステージの興奮を予感させる。この曲は82年の日本でのライブを収めた「Twins
I & II」でも聴かれるファンキーなナンバーである。エド・カイエのテナーサックス・ソロに続きジェイソン・カーダーのトランペットがブルージーながらとぼけた味わいも見せる。ランディー・バーンセンのギターソロは軽いファズを効かせて軽快に弾いてゆくところがダリル・ステューマーを思わせるそしてジェフ・カースウェルのベースがバンドの屋台骨をずっしりと固めている。
※フロリダ南部出身のギタリスト、ランディー・バーンセンの85年のデビューアルバム「"Music
for People, Planets & Washing Machines」には同じ地方出身のジャコが全面的に参加している。
※ ジェフ・カースウェルはこのビッグバンドのビリー・ロス(アルト・サックス、ピッコロ)とマイケル・レヴァイン(キーボード:今回は参加せず)のデュオであるRoss-Levine
Band ('81)にパット・メセニーらと共に参加している。
続いてはジャコの76年の初ソロから「Opus Pocus」。ギター・シンセサイザーの三味線の音に導かれて始まる。キーボードがマリンバの音でカウンター・メロディーを弾いてゆき、そしてバンドがテーマを奏でた後、ジェフ・カースウェルの音数の多い達者なベースソロをフィーチャーしてゆく。"三味線ギター"の短いソロとブラス・セクションのリフを挟んでエレクトリック・ピアノのソロへと進み、ブラスのテーマで決めるエンディングはクールである。
ここでジミー・ハスリップが登場。ウェザーリポートの「Havona」である。ミュートしたトランペットのイントロから、ジミー・ハスリップが彼らしいベースラインで曲にスピード感を与える。長めのテナーサックス・ソロが入り、ウェザー・リポートらしい展開を予感させる。エレクトリック・ピアノのブレイクに続いてジミー・ハスリップがスリリングなベースソロを展開する。エド・カイエのテナー・サックスとの掛け合いも決めて終盤まで駆け抜けるベースラインが秀逸だ。
次の曲は「(Used to be a) Cha Cha」。「Word of Mouth Revisited」に収められている曲だ。 反復するベースラインにブラス・アンサンブルがかぶさり、シンセサイザーのスティール・ドラムとフリューゲル・ホーンがユニゾンで奏でるメロディーが流れだすと紛れもなくラテンの乗りである。ビリー・ロスのピッコロがブラジリアンな雰囲気を盛り上げる。ドラムスがシンバルとベースドラムのみでリズムを刻み、ピアノが軽くフィルインする中、ジミー・ハスリップのベースソロは縦横無尽に架けまわる。フレットの高い部分を使ったスタイルはジャコのプレイを意識したものかもしれないが、音としてはジミー・ハスリップの音である。
ここでゲスト・ベーシストがジェラルド・ヴィーズリーに交代する。予定ではここブルーノートでの6日間の後半のみの出演だったのだが、スケジュールが変わって最初から参加できることになったらしい。ファンにとっては幸運なハプニングというべきだろう。曲はウェザー・リポートの「Black Market」から「Barbary Coast」。ジェラルド・ヴィーズリーのクリスプな音は当時のジャコを彷彿とさせる。エド・カイエのテナーサックスソロも曲のカラーに合った好展開を見せる。途中ランディー・バーンセンがギターソロをとるのだが、機材のトラブルで中断してしまったのは残念。デヴィッド・ロイトスティーンがエレクトリック・ピアノでカバーすることとなった再びジェラルド・ヴィーズリーの華麗なベースソロがフィーチャーされ、大きく盛り上がる中エンディングへ。
次の「Elegant People」はウェイン・ショーターの曲でやはり「Black Market」に収められた曲だが、ジャコが大変気に入ったため後に「Holiday for Pans」のタイトルで81年にマイアミで再度録音したのだという。しかしながらその時のマスターテープが紛失してしまい、正式な形でリリースされず、その後海賊盤として出回っていたが98年にようやく日の目を見ることとなった、いわく付きの曲である。タイトな導入部からフリーフォームな中間部へと流れて行く展開は実にスリリングである。グレッグ・ギスバートのトランペット・ソロは、マーク・アイシャムを想わせるようなミステリアスな感じで始まり、次第に熱を帯びてメイナード・ファーガスンあるいはルー・ソロフばりの突き抜けたラインへと展開する。続くベースソロではジェラルド・ヴィーズリーの高速プレイが堪能できるという、嬉しい展開の曲であった。
ここでジェラルド・ヴィーズリーがステージを降り、代わってヴィクター・ウーテンが登場する。曲は「Teen Town」で、ウェザー・リポートのベストセラー・アルバムとなった「Heavy Weather」に収められた曲である。ヴィクター・ウーテンがフレットレス・ベースで繰り出す速いベースラインにジョー・バラティのベース・トロンボーンがユニゾンで乗り、重低音を響かせる。後半のソプラノサックスとの絡みも楽しく聞かせてくれた。
続く「Continuum」はジャコのファーストからの曲だが、ヴィクター・ウーテンの長いソロで始まる。ベースのボリューム奏法からハーモニクスを使ったスライディングなど、彼ならではのトリック・プレイを満載したまさに変幻自在のソロである。この人にかかるとベースという楽器の可能性が一気に広がったように聞こえる。両手のタッピングでピアノのようなメロディーを弾くと思えば右手親指でリズムをとりながら一人二役のベース・デュオを聴かせる。ブラス・アンサンブルが奏でる緩やかなメロディーが静まり返った会場に響くところは実に美しい。
バンド紹介と共にジミー・ハスリップが再び登場し、二人のゲスト・ベーシストの競演となる。曲はワード・オヴ・マウスのファースト・アルバムから「Liberty City」である。軽快なブラス・アンサンブルで始まり、2人のベースのユニゾンからジミー・ハスリップのソロへと進んで行く。ヴィクター・ウーテンがコード弾きでサポートする上をジミー・ハスリップが高速フレーズを繰り出してゆく。その後の二人の絡み合いは聴き物である。ジミー・ハスリップが音数の多いフレーズをたたき出すように弾くと、ヴィクター・ウーテンはコードを多用した彼らしい豊かなメロディラインを聴かせる。その後テーマに戻るが、ベース、バリトン・サックス、ベース・トロンボーンの低音チームがユニゾンで奏でるのは圧巻である。
アンコールに応えて3人のゲスト・ベーシストが全員登場。一曲目で演奏された「The Chicken」を今度は4人のベーシストで演奏するとう豪華版である。ヴィクター・ウーテンのリフで始まり、ジェラルド・ヴィーズリーがアクセントを入れるとジェフ・カースウェルがベースラインを弾き、そしてジミー・ハスリップがメロディーを弾く。まずジェラルド・ヴィーズリーのソロ。5弦ベースの高音弦を使ってのソロはまるでギターソロを聴いている様に想わせる。ジミー・ハスリップはやはり高速プレイで盛り上げてくる。ヴィクター・ウーテンはフレットレス・ベースの持ち味を生かしてスライディングを交えてのメロディアスなプレイを聴かせる。ジェフ・カースウェルはアタックの強いフィンガリングでアクセントをつける。四人四様のベースが味わえる絶妙な展開で、これはピーター・グレイヴスの言うとおり「4ベースヒット、つまりホームラン」と言わざるを得ない。
沸き返る会場に応えて、嬉しいことにもう一曲披露された。「Word of Mouth Revisited」に収められていたハービー・ハンコックの「Wiggle Waggle」である。テナーサックスが4人のベーシストと掛け合いを聴かせ、トランペットが派手なトーンで決めてくれる。エレクトリック・ピアノのソロも短いながら小気味良い。もちろん絶妙なアンサンブルがバッキングし、全員のユニゾンでぴたりと決めるエンディングはさすがとしか言いようがない。
3人の人気ベーシストをゲストに迎えてジャコ・パストリアスの天才を振り返る豪華なステージであったが、やはりピーター・グレイヴスの言葉どおり、ジャコの作曲家としての才能に改めて感服させられ、卓越した技術と感性を持ったジャコの音楽はこれからも多くのミュージシャンやファンを魅了しつづけるに違いないと改めて確信させられる一夜であった。
Members:
ジミー・ハスリップ
(B), ヴィクター・ウーテン (B), ジェラルド・ヴィーズリー (B)
エド・カイエ(T. Sax), ビリー・ロス(A. Sax, Piccolo),
ゲイリー・ケラー (A. Sax, T. Sax), マイク・ブリグノラ (B. Sax, B. Clarinet),
ダンテ・ルチアーニ (Tb),
ジョー・バラティ (B. Tb)
ジェイソン・カーダー (Tp), グレッグ・ギスバート (Tp), ケン・フォーク (Tp),
デヴィッド・ロイトスティーン
(Key), ランディー・バーンセン(G), マーク・グリフィス (Ds), ジェフ・カースウェル (B), ピーター・グレイヴス (Conductor),
ラリー・ワリロウ (Arranger, Sound engineer)
Set List:
1.
Soul Intro / The Chicken
2. Opus Pocus
3. Havona
4. (Used to be a) Cha
Cha
5. Barbary Coast
6. Elegant People
7. Teen Town
8. Continuum
9.
Liberty City
10. The Chicken
11. Wiggle Waggle
"Word
of Mouth Revisited"のレコーディングメンバーで今回不参加のミュージシャン:
Jeff Kievit(tp), Dana Teboe(tb),
John Kricker(tb), Mike Levine(p)
レポート:Tatsuro
Ueda
取材協力:BLUE
NOTE TOKYO
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