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LIVE REPORT

JING CHI
22nd April, 2004 - 2nd Stage BLUE NOTE TOKYO


爆発的生命力を発揮するヘヴィー・バンド"JING CHI"の大地を揺るがすヘヴィ・グルーヴに酔いしれる一夜


"JING CHI"は中国語の「精気」のことで、生命力を現す言葉としてリーダーのジミー・ハスリップが選んだバンド名である。JING CHIは同名のスタジオアルバムを2002年に発表し、翌年にはカリフォルニア州オークランドの人気ジャズスポット"Yoshi's"でのライブパフォーマンスを収めた「Live at Yoshi's」をリリースしている。

ハスリップとロベン・フォードは90年代に人気を博し、先日再結成して来日したフュージョン・バンド、イエロー・ジャケッツ以来のパートナーであり、昨年のロベン・フォード・バンドの来日にも同行している。ドラムスのヴィニー・カリウタはフランク・ザッパとの活動で知られるが、その他ジョニー・ミッチェルからリー・リトナー、ブライアン・フェリーに至るまで非常に幅広い。今回のステージではゲストとしてセッション・ギタリストとして名高いマイケル・ランドウ、そしてトライバル・テックのキーボーディストとして活躍したデイヴィッド・ゴールドブラットが参加している。

会場が暗くなりステージに現れた5人。ロベン・フォードとマイケル・ランドウのユニゾンでスロー・テンポながら豪快に始まる"The Hong Kong Incident"。ジミー・ハスリップの重戦車ベースがサブキックを装備したドラムスのキックと合わせて会場を揺るがす。ロベン・フォードの艶のあるブルージーなギターが冴える。ずっしりと腹に堪えるヴィニー・カリウタのドラムスは本当にヘヴィーだ。マイケル・ランドウのソロはストラトキャスターらしいソリッドなファズトーンを響かせ、ロベン・フォードのレスポールと好対照を成している。

続いて「Stan Key」である。これもヘヴィーなカリウタのリズムに導かれて、テレキャスターに持ち替えたフォードがクリスプな音でやはりブルースフィーリングたっぷりにメロディーを弾いてゆく。ワウをかけた軽く歪んだトーンは彼の得意とするところである。一つ一つの音が手に取るように聞こえてくる。続いてランダウのソロ。フィードバックを使った伸びやかな音で吼えるかのようだ。そのバックでエレクトリック・ピアノでさりげなくアクセントをつけるデイヴィッド・ゴールドブラットが良い味を出している。フォードのソロへと移り、メロディアスなフレーズがほとばしる。キーボードのブロック・コードで効果的にキーチェンジすると、続いてエレクトリック・ピアノを中心としたキーボードソロへと移る。風に乗って聞こえてくるような心地よさだ。ここではカリウタもやや重さを和らげたリズムを叩いている。浮遊感のあるアンサンブルをハスリップが地表に繋ぎ止めているかのようだ。曲は次第に激しさを増し、嵐のようなリズム展開となってエンディングへとなだれ込んでゆく。

ハスリップによるメンバー紹介のあと、フォードのペンによる曲「Going Nowhere」が演奏される。フォードはレスポールに持ち替え、ランドウはボトルネックを使っている。フォードの抑えた歌声がけだるい感じを醸し出しているが、バンドの音は徐々に熱を加えてゆく。フォードのソロにアクセントを加えるランドウのバッキングが小気味良い。カリウタはハスリップの磐石のベースラインに乗せていくらかフリーフォームにリズムを展開している。そしてゴールドブラットがシンセサイザーでフィルを入れてくるあたりから激しさを増して行き、ハスリップのベースを軸にステージが回転し始めるかのような展開を見せる。ボーカル・パートに戻ったあと、フォードがループやピッチベンドなどのエフェクターでサウンドコラージュを作り出す中、ミステリアスなエンディングを迎える。

シンセサイザーのコズミックなサウンド・スケープに導かれて始まる「Move On」。カリウタのカウントでステディな4ビートが刻まれる上をテレキャスターに持ち替えたフォードが歌心あるフレーズを奏でてゆく。そのフレーズをランドウが引き継ぎ、伸びのあるダンディーなトーンを聴かせる。こうした音色の違いもツイン・ギターの楽しみのひとつである。ゴールドブラットのアコースティック・ピアノの音が華を添えるが、この人の音の作りは非常に繊細ながらツボを心得たダイナミズムを持っている。

続く"Treasure"は再びハードなナンバーである。リヴァーブを使ったランドウのバッキングに押されるようにフォードがレスポールを歌わせる。カリユタの寸分の狂いもないリズムとハスリップの重量級ベースががっちりとした骨格を見せつける。エスニックな味わいのフォードのソロが佳境に差しかかるとジプシー的な異郷の香りが漂ってくる。ゴールドブラットはブルージーなオルガン・トーンでその後を受ける。その間、グルーヴィーにリズムを刻みつづけるカリユタとハスリップのコンビネーションは絶妙である。

ここで変わって2ビートのブルース曲が登場する。マイケル・ランドウのアルバム「Live 2000」に収録されている「Why U Lie」である。スティーヴィー・レイ・ヴォーンを思わせるようなランダウの歌とギターが響く。"Why You Lie?"というラインをフォードとコーラスで歌った後、低い唸りから飛翔するハイ・トーンまでランドウのギターが駆け巡るとステージは一気に白熱する。ハスリップも彼らしい高速フレーズのソロで応じてゆく。ここでもカリユタとのコンビネーションは見事である。

次はテレキャスターに持ち替えたフォードが鉄壁のリズムの上を叫ぶように弾く「Crazy House」。カリウタの派手さを抑えたドラミングががっちりとしたリズムで引っ張る。そしてスペイシーなエフェクトをかけたシンセサイザーが会場を大気圏外へ運んで行く。全員が複雑に絡み合い、緊張感あふれる演奏に会場はトランス状態でステージを見つめている。そしてバンド・サウンドが白熱して行く中、頂点に達したところでエンディングを迎えるまで息つく隙も与えない、恐ろしいまでの興奮に満ちた演奏であった。

アンコールに応えてステージに戻ったバンドがスローにリラックスしたブルース・ジャムを奏でる。「Blues MD」である。フォードはレスポールでヴォリュームペダルを使って煽るようにブルーなフレーズを弾き連ねて行く。青い照明に浮かび上がるメンバー達も音に酔いしれているかのようだ。フォードのギターはときに笑うような、また時に絞り出すような音で歌いつづける。カリウタとハスリップは引きずるようなレイジーなリズムで引っ張っている。ランダウのソロは訥々とした語り口で、シカゴブルースを思わせる心地良さである。ハスリップの音数の多いソロは早口でまくし立てるようだ。曲は再びフォードのソロ・パートへと展開し、けだるい雰囲気を残してエンディングへ。

バンドの名のとおり生命力にあふれた演奏を展開してくれたJING CHIであった。時にジャジーに、そしてブルージーかと思えば最盛期のツェッペリンもかくやとばかりにヘヴィーなロックサウンドを響かせる。ヘヴィー・グルーヴという点では今年一番の豪快さといえよう。なお、今年6月にはニュー・アルバム「Jing Chi 3-D」が発売される予定である

Members:
ジミー・ハスリップ(Bass)
ロベン・フォード(Guitars, Vocal)
マイケル・ランドウ(Guitar)
ヴィニー・カリウタ(Drums)
デビッド・ゴールドブラット(Keyboards)

Set List:
1. The Hong Kong Incident
2. Stan Key
3. Going Nowhere
4. Move On
5. Treasure
6. Why U Lie
7. Crazy House
8. Blues MD

注:
メンバーの名前のカタカナ表記は、本人の発音に従えばそれぞれ「ジミー・ハズリップ」、「ヴィニー・カリユタ」、「マイケル・ランダウ」ですが、日本での通例に従い「ジミー・ハスリップ」、「ヴィニー・カリウタ」、「マイケル・ランドウ」としました。ご了承ください。

レポート:Tatsuro Ueda
取材協力:
BLUE NOTE TOKYO

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