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Show Review

Karin Krog & Jacob Young -Norwegian Jazz Nights
December 9, 2003 at Satin Doll, Roppongi, Tokyo


サテン・ドールでベルベット・ヴォイスに酔うひととき
− ノルウェーのトップ・ヴォーカリストと若き達人ギタリストが贈る艶やかなバラードと熱いジャズ魂の宵






Interview With Karin Krog and Jacob Young


Karin Krog & Jacob Young Biography


会場は、ジャズマニアが足しげく通う六本木サテンドールである。六本木の中心部に位置しながらリーズナブルな価格でフレンチを中心とした料理や、カクテル、ウイスキー、ワインなど豊富なドリンクメニューを楽しませてくれる。

今回のレポートはセカンドステージから。一曲目はノルウェーのトラッドで子守唄の「Ban Sull」がカリンの独唱で歌われた。やわらかで滑らかな歌声が満席の会場に慈雨のごとく降り注ぐ。

次はヤコブ・ヤングのソロ・ギターで奏でる「A, Den Som Var En Lovetann」。ヤマハのフルアコースティック・ギターAEX-1500がジム・ホールを思わせる丸みを帯びたやわらかなトーンでバラードの甘いメロディーを響かせる。前曲に引き続き会場はただ聴き入るばかりである。

カリンの紹介で次の曲「Everything Happens to Me」が始まる。これもやはりスローなバラードで、カリン・クローグ&ヤコブ・ヤングのデュオ作「Where Flamingos Fly」に収められた曲だ。ヤコブのソフトなギターにのせてカリンがなめらかな歌声で会場に語りかけるように歌うと、それはあたかも50年前の曲が現在によみがえるようであった。

次の「I'll be Seeing You」もやはり「Where Flamingos Fly」に収められた曲である。ボーカルとギターとの絡み合いが心地よい。中間部のヤコブのギターソロはパット・マルティーノの妙技を彷彿とさせる。

続くアントニオ・カルロス・ジョビンの「Once I Loved」 ではやはりカリンのソフトな歌い口が際立つ。これも「Where Flamingos Fly」収録曲である。

次の「Everytime We Say Goodbye」も同CDに収められた曲で、中間部のギターソロではフレットの高いほうで弾かれるメロディーがたおやかな感じを出しており、スタジオ録音よりもより感情のこもった演奏となった。

ここでカリンが共演の日本人ミュージシャンをステージに迎えた。今泉正明(p)、加藤真一(b)、田鹿雅裕(dr)の面々である。カリン自らはステージを一旦降りて、「All the Things You Are」をヤコブを入れたカルテットの演奏で聴かせてくれた。ソロ・パートではまずヤコブがマルチ・エフェクター(ローランドME-50)を通したヤマハAEX-1500で軽いタッチのジム・ホ−ル風のソロを披露し、次に加藤真一がウッドベースのフレット上を自在に走る指さばきを見せた。続くピアノソロでは今泉正明がツボを心得たフレージングで決め、そして田鹿雅裕が巧く構築されたドラムソロでシンバルワークの妙技を見せてくれた。カルテットの腕のほどを披露するに格好の演奏といえるが、実はメンバーが顔を合わせたのはこのステージの数時間前だという。さすがというほかはあるまい。

もう一曲、カルテットでのインストルメンタル曲「Eternal Triangle」が演奏された。バンドの腕前によって見事なスウィング感が出ている。この曲でのヤコブの自在なギター・ワークには観客も感服することしきりであった。ところでここで演奏された2曲のインストルメンタル曲はソニー・スティット(Sonny Stitt)の1973年のアルバム「The Champ」に収められている曲である。オスローに住むヤコブの自宅には擦り切れかけたこのLPがレコード棚に収まっているものと思って差し支えあるまい。

ここでカリンがステージに戻り、カルテットをバックに「Once upon a Summertime」を歌った。フレンチ・ポップスの大御所ミシェル・ルグランの手になるこの曲はいかにもシャンソン風な出だしからラテン・フレーバーをまとった中間部へと展開して行く。カリンのシルキーな歌声が実によくマッチしている。

次の「Green Dolphin Street」" はヤコブの奏でるいささかミステリアスなコードで始まり、そこへドラムス、ベース、ピアノが重なってくる展開である。ギターはマルチ・エフェクターを通して若干の倍音を加えてあるが、曲調にフィットした使い方といえる。カリンが力強い歌声を聴かせるとそれに続いてギターがソロを取り、そしてピアノが見事にその後をつないで行く。この一連の進行は今夜のステージのハイライトと言ってよい。

次は美しいスローバラード「Body and Soul」である。「Green Dolphin Street」のインタープレイの熱気を冷ますかのようなクールな演奏で、カリンのヴォーカルがバンドのつむぐ音の波に漂うかのような心地よさである。

続く「Don't Get Scared」ではムードを変えて、カリンがこなれたスキャットでブルースを歌う。ヤコブが短いソロを挟みながらステディーに伴奏する中、カリンの歌声は時におどけた表情を見せながら会場を楽しませてくれた。

前曲でステージを後にしたバンドだったが、会場の大きな拍手に応えて再びステージへ上がる。曲は「Round Midnight」で、グランドピアノのソロに導かれて展開して行く。良く考えられたベースソロが聴き所のひとつといえるが、やはりカリンの曲の雰囲気に実に良くマッチしたヴォーカルが、そのヴォイス・コントロールの巧みさと声の力をもって会場を魅了したことを述べなければならないことはいうまでもない。





Musicians:
Karin Krog : vocals
Jacob Young : guitar
Masaaki Imaizumi : piano
Shinichi Kato : bass
Masahiro Tajika : drums



Karin Krog(カーリン・クローグ)
Biography
1964年にソロ・アーティストとしてアルバム・デビューしてからこのかた、カーリン・クローグはノルウェーおよび周辺におけるトップ・ジャズ・シンガーとして活躍してきた。その共演歴は、ジョン・サーマン、ベンクト・ハルベルク、レッド・ミッチェル、ニルス・リンドバーグ、デクスター・ゴードン、アーチー・シェップ、ウォーン・マーシュなど著名なミュージシャンが名を連ねる。常にジャズ・シーンの前線で活動してきた彼女がギタリストのヤコブ・ヤングとデュエットで作ったアルバム"Where Flamingos Fly"(Grappa Records 2002)が今夜の演奏の中心となる。2003年にはスティーヴ・キューン・トリオと共演した"Where you at?" (Enja Records)を発表している。今回の来日は1970年の初来日から数えて5回目の来日である。

Jacob Young(ヤコブ・ヤング) Biography
ヤコブ・ヤングはノルウェーの若手ミュージシャンの中で最も腕の立つギタリスト・作曲家である。90年代にはニューヨークに渡り、ジム・ホールやリッチー・バイラーク、ケン・ワーナーといった偉大なアーティストに師事した。ヤコブ・ヤングはこれまでにジュニア・マンス、アーニー・ローレンス、ラリー・ゴールディングス、ラシード・アリ、松居慶子、ジョン・アバークロンビー、デイヴ・マン、ロニー・プラキシコ、エリック・シェンクマン、元スピン・ドクターズのアーロン・コメスナド、伝説的ミュージシャンから若手にいたるまで数多くのミュージシャンと共演している。また、同郷のギタリスト・作曲家であるホーコン・ストームとのデュオやカーリン・クローグとの共演でも知られている。


Set List
1. Ban Sull (Lullaby)
2. A, Den Som Var En Lovetann
3. Everything Happens to Me
4. I'll be Seeing You
5. Once I Loved
6. Everytime We Say Goodbye
7. All the Things You Are
8. Eternal Triangle
9. Once upon a Summertime
10. Green Dolphin Street
11. Body and Soul
12. Don't Get Scared
13. Round Midnight


Report by Tatsuro Ueda
Interview by Tatsuro Ueda
Photography by Yoko Ueda
Design by Asako Matsuzaka
Special Thanks to COSMO PR, Satin Doll, Roppongi


カーリン・クローグ&ヤコブ・ヤング インタビュー


Q:ノルウェーのトラッドを歌っていましたが、何という曲ですか?

Karin(K): 「Ban Sull」(ボン・スール)といって、ノルウェーに古くから伝わる子守唄です。インプロヴィゼーションを加えるととても面白い曲なのね。私達スカンディナヴィア人はアメリカのミュージシャンとは違ったルーツを持っているわけで、こういった民謡を取り入れることで自分自身をよりよく表現することができると思うんです。確かに最近では多くのヨーロッパ人ミュージシャンが自分のルーツに根ざした表現へ向かっているわね。

Q: お二人はいつ頃から一緒に演奏していらっしゃるのですか?

Karin and Jacob(K & J):2001年から演奏して、それからレコーディングをしたわけです。


Q: カリンさんは1970年を始めに5回ほど来日していらっしゃいますが、日本の聴衆の変化などはお感じになりますか?

K: 感じます。日本の聴衆の皆さんは以前より反応が良くなったと思いますよ。以前は皆さん内気な感じで、音楽を楽しんでもらえているのかどうか判りにくかったものです。今はオープンに感情を現してくれるようになったと思います。

J: 実はセカンドセットでは音量を押さえて演奏していたんですよ。こうすると聴衆が聴いてくれているかどうかテストできるから。でも今夜のお客さんは本当に良く聴いてくれたなあ。誰一人音を立てずに、特にバラードでは静まり返っていたし。もちろん、アップテンポな曲ではお喋りしている人もいたけれど、それはそれでOKです。



Q: 今後の予定をお聞かせください。?

J: 来年はノルウェーで二つツアーの予定があります。ひとつは3月から自分のクインテット、ヤコブ・ヤング・グループでツアーをやるんです。ECMからアルバムも出ますよ。これはマンフレッド・アイヒャーのプロデュースでオスローで録音したもので、自分で書いたインストルメンタル曲が9曲入る予定です。タイトルはまだ決まってないけど。それで2週間の予定でスカンディナヴィア各国を回ります。そのあと、私がアルバム・プロデュースをしたノルウェーのラップ&ヒップホップ・バンドと一緒にライブをいくつかやる予定です。

K: 私は1月にインドでフェスティバルに出演して、それからまた2月に別のフェスティバルがイスラエルであって、それからノルウェーでコンサート。あちこち飛びまわらなきゃ。

J :今年は二人で世界中いろんな所へ行ったなあ。でもオーストラリアは行っていないか。

K: 私はオーストラリアに行ったことあるわよ。いいところよぉ。



Q:今日はありがとうございました。日本での滞在を楽しまれますように、そしてこれからの活動が成功することをお祈りします。

K&J : どうもありがとう!



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