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LIVE REPORT


ピート・テオ ソロライブ
2003年9月21日 場所: のろ(吉祥寺)



東京にぽっかりとあいたマレーシアの空間。人々の営みを切り取って詠う現代の吟遊詩人は、世界のどんな人にも伝わる「心」を赤いカバンから取り出して見せてくれたのである。

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Pete Teo Official Site(English): http://www.peteteo.com/
日本語による公式情報ページ:
http://sound.jp/peteteo/

アルバム「Rustic Living for Urbanites」詳細はこちら

ピート・テオさんからのメッセージ

ピート・テオはユニークなミュージシャンである。ひとつには彼はマレーシア出身のミュージシャンでありながらフォーク、ロック・ファンにアピールする音楽性を持っている。実際、日本においても既に少数ながら熱心なファンが存在している。またもうひとつには、意外とも言えるほど長く多様なキャリアを持っていることである。1985年にまだ10代であった彼はイギリスのテレビ番組の音楽を制作し、また作曲家、ギタリストとしてSibert というフュージョンバンドを始めている。そしてのちにMid Centuryというユニットを作ってBMG香港からデビュー作を発表、カルト的人気を誇るバンドとして活躍した。また、ロンドンのテレビ局チャンネル4での音楽制作のかたわら、哲学の講師として教鞭を振るっていたこともあるという。

その後、90年代後半は音楽活動を中断していたが、2000年に現在のスタイルでソロ・アーティストとして活動を再開した彼は、2003年6月に初のソロアルバムである「Rustic Living for Urbanites」(訳:都会人のためのひなびた暮し)を発表した。このアルバムはキング・クリムゾン、スティーヴ・モース(元ディキシー・ドレッグス、ディープ・パープル)、またカリフォルニア・ギター・トリオなどとの活動で知られる、プロデュサーでありレコーディング・エンジニアのローナン・クリス・マーフィーのプロデュースによるものである。レコーディングには東南アジアで最も優れたドラマーであるルイス・プラガサムなどマレーシアを代表するミュージシャンが名を連ねているほか、ボンデージ・フルーツの鬼怒無月を含むユニットであるCOILほか多くのジャズバンドで活躍する早川岳晴が参加している。ピート・テオは好きなミュージシャンとしてレナード・コーエン、ヴァン・モリソン、ニック・ドレイクなどを挙げているほか、実験的なジャズやロックの熱烈なファンでもある。

ピート・テオの日本ツアーは北海道で行われたアジア・アコースティック・ミュージック・フェスティバル2003に合わせて開催された。北海道のほか、東京、神奈川、大阪で5つのライブを行っている。

今回はその中のひとつ、吉祥寺「のろ」で行われたライブを紹介する。「のろ」はこじんまりとした雰囲気の小さなライブハウスで、このライブにはまさに老若男女40名ほどが詰め掛け、満員状態だった。

ライブはソロとバンド編成との二部構成で行われた。客席後方で談笑していたピートがステージのスツールに腰を据え、自己紹介の後に歌い出したのが第一部の一曲目となる"Blue"である。夭折したイギリスのシンガー・ソングライター、ニック・ドレイクの書く曲に似た雰囲気の佳曲である。

次には"Alive 'n Free"が演奏された。三拍子で綴られる内省的な物語である。曲の雰囲気を伝える一助として歌詞の1部をここに引用したい。
「失礼ながらお聞きしたいが、どこから入りこんできたのかね?」/「君の心には穴が開いている。そこから入りこんだというわけさ。」/生きて自由で居られるという事が、どう言うことだか判らなくなる日もあるものだ。

次の"Last Good Man"はピートが大きく影響を受けたヴァン・モリソンに捧げた曲である。速いピッチでギターをかき鳴らす様はブルース・コバーンを思わせる。焦燥感や疾走感が演奏からほとばしり、そしてピートの繊細な歌声とともに聴衆の胸に深く入りこんでくるようだ。

ここでカバー・ソングが演奏された。クラウデッド・ハウスの活動で知られるニール・フィンの曲で"Better Be Home Soon"。曲自体はやはりニール・フィンの特色あるものだが、演奏としてはこなれた印象で、ライブの流れによくマッチしている。

ピートにはオーストラリア人のミュージシャンでバターズという友人がいた。一緒にアルバム制作をしようと話し合っていたが、残念なことにそれが実現する前にこの世を去ってしまった。その友人について歌った曲が"Street Where You Live"である。再びニック・ドレイクを思わせるソフトな歌い口で聴かせ、またギターの伴奏の腕前も注目に値する。

CDの一曲目の"Arms of Marianne"で第1部は幕を閉じる。この曲は軽快なリズムと親しみやすいメロディーとで覚えやすい曲である。曲は中盤でスローなパートへ移り、そして再びテンポを上げて行くのだが、この辺りにピートの曲作りの上手さが窺える。曲はポップな感じでブルース・ホーンズビーあたりに通じるものがある。

しばしの休憩の後、ピート・テオは三人のミュージシャンと共にステージに戻る。ベースの早川岳晴、パーカッションの関根真理、ハーモニカの八木のぶおである。第二部の一曲目は"Rhapsody in Blue"といういささか官能的な内容の歌である。曲はインストルメンタルパートを含む形に延長されているが、ライブの三時間前に初めて顔を合わせたというものの、キメのブレークもぴたりと決めて、既に息の合ったところを見せてくれた。演奏はCDよりもへヴィーな感覚であったのは言うまでもない。

続く"Budapest"はどこかのどかな感じのギターで始まる。音が徐々に積み重なって行き、ハーモニカのソロへと続くのだが、早川岳晴のベースが曲に深みとハーモニーを与えている。前半は牧歌的、後半はブルージーな演奏となり、一曲の中で好対照をみせていた。

"Hush Marianne"はミディアムテンポの曲で、マイナー・コードで始まり、中盤でダイナミックスを変えることで同じテンポを保ちながら曲がややスローになった印象を与える。八木のぶおのハーモニカがもうひとつのメロディーを作りだし、関根真理のパーカッションと早川岳晴のベースがCDよりも激しさを増した輪郭を描き出して行く。こうした即興的楽しみというのはライブならではのものであろう。ピート・テオも楽しそうにギターを弾いていた。

もうひとつのマリアンの歌、"Marianne Called"が次に演奏された。その曲はピート・テオの、内省的な、また優しく知的なスタイルをよく現しているようである。曲の全体としては短調を基調にしたものだが長調とのあいだを揺れ動き、その中に7thコードを効果的に配している。曲が仕事や日常生活の苦悩を歌う重いものであるのに対してメロディーが時おり明るい表情を見せるところが希望を覗かせる様にも感じさせる。バンドの演奏はやや抑制したもので、ピートのボーカルとギターを前に出した形としているが、終盤近くになってハーモニカの短くも味わいあるソロが入り、そして早川岳晴のフリーフォームなエレクトリック・アップライト・ベースのソロがフィーチャーされた。

"Jesselton Tonight"はマレーシアでシングルカットされた曲である。ここに至ってバンドの一体感が際立ってきた。楽器同士の絡み合いが上手く出来あがってきたようだ。ピートのリードで観客が手拍子を取り始めると会場が一体となって盛り上がりを見せる。ピートのボーカルは今まで以上に前へ出てくるように聞こえるが、バンドがピートのギターの延長として機能し始めたことの証明と見て良いだろう。

第二部の最後はピートが2週間前に書いたという新曲の"Tom"。ギターとボーカルを中心にした軽快なフォーク・ナンバーである。明るい曲調はライブの最後を飾るにふさわしい。バンドの演奏はギターの演奏に幅を持たせるに十分な程度に抑えられている。曲の中ほどから観客が自然と手拍子を叩き始めると曲はクライマックスへと向かう。八木のぶおのハーモニカ・ソロは熱の入ったものでまた曲の中で充分に羽目を伸ばしたように自然に聞こえる。バンドはまだ40分しか一緒に演奏していないのだが、何ヶ月も一緒にやってきたかのように一体感を出している。

観客の歓声に応えてピート・テオが再びステージへ。今度はソロで、彼の一番好きな曲であるというレナード・コーエンの"Famous Blue Raincoat"である。静かな曲ながら、胸に染み入る演奏でピートのルーツを見る思いであった。
ピート・テオは日本ではまだなじみの薄いアーティストであるが、実は長い経験を持った作曲家、演奏家である。ライブを聴いていると、彼自身が多様なスタイルの音楽を聴き、演奏してきたことがうかがい知れる。そして彼の音楽の中には、彼の辿ってきた人生の集積が、それも等身大で込められているのである。


Members:
早川岳晴(Bass) http://www2u.biglobe.ne.jp/~takeharu/
関根真理(Percussion) http://www.dareyanen.com/mari/
八木のぶお(Harmonica) http://sound.jp/yagi-nobuo/

-Set List-

<1st Set>
Blue
Alive 'n Free
Last Good Man
Better Be Home Soon
Street Where You Live
Arms of Marianne

<2nd Set>
Rhapsody in Blue
Budapest
Hush Marianne
Marianne Called
Jesselton Tonight
Tom

Enc) Famous Blue Raincoat

Report by Tatsuro Ueda
Photography by Daryl Kho, Yoko Ueda, Shiori Takeuchi
Edit & Design by Asako Matsuzaka
Many thanks to
Leonardo Pavkovic(MoonJune Music), Shiori Takeuchi, NORO



Message from PETE TEO



今回日本へ来るまでは、どういうことになるか想像もつかなかったのですが、日本に行って、そして演奏してみて、ここが素晴らしいところだということがわかりました。まず北海道へ行きましたが、これはツアーのスケジュールが立てこんでいたため、大変忙しいものとなりました。でも北海道の人達はとても親切で、そして田舎の景色は本当に美しかった。公民館から小さな農場まで様々なところで演奏しましたが、どれもが楽しい思い出です。来てくれた人の中には私の生まれ故郷であるマレーシアのサバ州で仕事をしたことのある人もいました。そして、もちろん食事の美味しいことといったら信じられないくらいでした。また今度、冬の季節に北海道へ行ってみたいと思っています。

東京と大阪は、北海道とは全く違っていて、そして刺激的でした。演奏のほかに数日の休暇もありましたので街中を探検して回りました。ものすごい人の波や交通事情、それでいて地球上のどこよりも清潔な街。私は観光スポットには興味がありませんから、住宅地の辺りをうろついて人々の暮しの様子を見て歩きました。西荻窪の居酒屋にはすっかり入り浸ってしまい、また吉祥寺もとても気に入っています。出会った人たちは初めのうちは打ち解けない様子でしたが、最後には友達づきあいが出来るようにまでなりました。そして、そうして出会った何人かの方からは、「今度日本に来るときには家へ泊まるように」とのお誘いも受けました。 その土地の方のお宅へ泊まるのは素晴らしいことでしょう。ともかく、ぜひまた日本に行って街の様子をもっとよく知りたいと思っています。それにしても、伝統的生活様式が残る中でテクノロジーが自然な形で社会に溶け込んでいることには、本当に感銘を受けました。こうした現代と伝統との融合は、新鮮な驚きです。トイレの自動暖房機能付き便座など、まったくもって最高だと思います。クアラルンプールの自宅にぜひ設置したいものですが・・・できることやら?

日本で演奏するのも素晴らしい。オーディエンスはいくぶん静かな感じですが、とてもよく聴いてくれて、音楽をよく知っているようです。そして音楽を気に入ってもらえたときには、演奏の後に"大変なことになる"ということがわかりました。この日本の3週間で、世界のどこよりも多くのサインを求められました。日本でもっとたくさんファンが増えればいいのに、、と思っています。そうすれば何度でも戻ってこられることでしょうから。皆さんが音楽を聴く姿勢、そして反応する姿が私にはとても嬉しいのです。。これは他には無いことだと思います。

ひとつだけ問題があるとすれば、終電の時間が早いので皆が早く帰ってしまうということでしょう。マレーシアではライブはしばしば夜中過ぎまで続き、そのあとの打ち上げは明け方まで続きます。そういうわけで、ここでのちょっと違った打ち上げに早く慣れないといけませんでした。でも早く切り上げるというのも長い目で見れば健康的でよいことかもしれません。とはいえ、ライブが終わった後、新たに出会った友人達と飲んだりおしゃべりをしたりというのは楽しいものです。私にとっては演奏の延長とも言うべき楽しいひと時なのです。
2004年の春にまた日本で演奏する機会があるかもしれません。もしそうなれば最高です。日本で定期的に演奏が出来ることを願っています。ここの街も人々も大好きです。そしてミュージシャン達もとても優れています。もしかしたら来年には日本のミュージシャンと一緒にアルバムを作るかもしれません。それができれば、すごいことになると思います。また、「くさや」も食べてみたい。ベースの早川岳晴さんとハーモニカの八木のぶおさんが、この次に日本に来たときにはご馳走してくれるそうです。においを嗅いだだけで気絶してしまうかもしれないと言っていましたが、でもなんだか美味しそうな気がします。

もう待ち遠しいばかりです!

2003. 9.30
PETE TEO


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