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LIVE REPORT


CARAVAN
May 13 2003 at On Air West, Shibuya, Tokyo

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どこまでも続く隊商(キャラバン)の道のり―旅の果ての新たな旅路







キャラバンが結成されてからすでに35年である。ロックというジャンルが生まれたのが60年代の後半と思えば、その歴史と共に歩んできたのがこのバンドと言ってよいだろう。

ロックはもともと若者の音楽として登場したのだが、35年も経てばもうすでに老境にさしかかる人もいるわけである。キャラバンはロックという音楽が「年齢に関わらず楽しめるものだ」ということを証明してくれた。リーダーのパイ・ヘイスティングは57歳であり、また他のメンバーも大体そのくらいの年齢であるが、世の中の水準で言えば初老の彼らが、どうしてどうしてへヴィーなロックサウンドを叩き出してくれるのだからこれを楽しいと言わずしてなんと言おう。

今回はキーボードにヤン・シェルハースを迎えての、後期編成である。といえばデイヴ・シンクレアのブルージーなハモンド・サウンドと対照的な華麗なシンセサイザー・トーンが期待できると思いきや、ブルージーなところはブルージーに、派手に決めるところは華やかにと、さすがの名手振りを見せてくれた。バンドとしてのまとまりも非常に良い状態であり、昨年のアメリカでのライブ(DVD"A Night's Tale: Live in America" 収録)やその前の日本公演と比べても格段に良いライブとなった。

1曲目"All the way"、2曲目"A very smelly, grubby little oik"と「Blind Dog at St. Dunstans」から軽い選曲で始めてくれたが、やはりパイ・ヘイスティングのハイ・トーン・ボーカルは健在で実に心地よく響く。ギターのダグ・ボイルの加入には当初賛否両論あったが、今回のライブを見るとこれは正解であったと納得。パイはリズム・ギターとボーカルに専念し、ダグ・ボイルがなめらかでかつスリリングなソロを展開する。この2人のコンビネーションも息の合ったところを見せてくれた。

3曲目に、スタジオアルバムとしては一番新しい「The Battle of Hastings」から"Liar"。キャラバンらしいひねりの効いたポップチューン。4曲目の"The dog, the dog, he's at it again"ではそれまでサポートに徹していたヤン・シェルハースのキーボードが炸裂。オルガントーンで弾きまくるソロに会場が沸き立つ。そしてジェフリー・リチャードソンのヴィオラがいかにもリチャードソン節というべきフレーズを繰り出してくるところへエレクトリック・ピアノが乗ってくると、すでにライブはクライマックスに達しているかのようだ。


 
Pye Hastings (G,Vo)   Jan Schelhaas(Key)
 
Doug Boyle (Lead Gtr) 左 Geoffrey Richardson (Vi, Fl, Spoons)
右 Jim Leverton (B, Vo)


会場のテンションが充分に高まったところで次に演奏されたのが、ファンの間で名曲と名高い"Nine feet underground"。. シェルハースのオルガンに導かれて始まるのだが、オリジナルキーボーディストのデイヴ・シンクレアの訥々とした語り口に比べて多彩なメロディーを乗せ、そしてテーマに戻ってくるところは絶妙である。ボイルもブルージーに引っ張っている。
キーボード、ギターとソロを配してボーカル・パートへ。そして再びスローなキーボード・ソロへと移行する。このソロがまた良い味わいを出している。ややフュージョンがかったジャズセンスが光る演奏で、ギターのボイルとの掛け合いがなにやら芝居のせりふの交換のようで面白い。
続くリチャードソンのヴィオラ・パートでは典雅とも言うべきフレージングをみせ、曲の奥行きを深めているが、これこそカンタベリー・ミュージックの醍醐味だろう。ダグ・ボイルのギターソロをバックアップする形でシェルハースがハモンドを奏でる。そして哀愁味を帯びたレヴァートンのボーカルパートへ。アルバムではオリジナル・ベーシストのリチャード・シンクレアが歌う部分だが、レバートンの渋い歌声が曲のトーンによくマッチしている。
後半のジャムセクションではシェルハースのシンセサイザーが華やかに盛り上げ、ボイルも負けずとリフを繰り出してくる。バックのリズムセクションもタイトに決まっており、結成35年という年月を全く感じさせないハードな演奏振りで会場を大いに沸かせてくれた。

鳴り止まない拍手が長く続いた後、今年リリース予定のニュー・アルバムから2曲続けて演奏。"Tell me why"はいかにもキャラバンらしい粋なバラードで始まるが、すぐにこれもいかにもといった感じの小洒落た4ビートのポップへと変わって行く。この小洒落かげんはリチャードソンの吹くフルートによるところが大きいようだ。
このフルートに続いてはじまる"Revenge"は、ややキャラバンらしからぬ感じのハードなナンバーである。それでも親しみやすいメロディーの歌が入るとやはり疑いようもないキャラバンの音である。解かりやすく親しみやすいメロディーと小粋なハーモニー、そして職人芸の楽器ソロと、キャラバンの魅力が3拍子揃った佳曲といってよい。リチャードソンのヴィオラはまるで引きちぎるように鋭い演奏だ。

次の"Nightmare"ではヴィオラとギターのデュエットで始まる。ヴィオラ・ソロではピチカートで聴かせるが、バンドのカラーを一番色濃く現しているのは実はリチャードソンなのではないかと思わせる好演奏で、ここ2年間ほどのうちで一番の演奏だろう。キャラバンがプログレッシブ・ロックとして括られている音楽の中でも一種独特な色彩を放っているのは、このソロがそうであるように、ひとえに「楽しい音楽」であるということにあるのではないだろうか。ボイルの泣かせるギター・ソロから、ラストのヴィオラとギターのユニゾンまで、聴かせどころたっぷり。

左上 Richard Coughlan (Ds)

ここで再び新曲が2曲。"Smoking gun"はコフランの叩く荒々しいドラムビートではじまる。"Liar"あたりの曲調といえばあたらずとも遠からずといえよう。キャラバンらしく途中から転調してユーモラスな面を覗かせる。ボイルのギターソロで次の"The unauthorized breakfast item"につなげていく。実は、この曲は昨年アメリカのニュー・ジャージー州トレントンで行われたNEARfestというプログレッシブ・ロック・フェスティバル(www.nearfest.com)での出来事を歌った曲で、ホテルでの朝のビュッフェの会計に余計なものが紛れ込んでいた、という事件をユーモアを交えて歌っている。"tell me, tell me, tell me what the truth is"というコーラス部分がなにやら耳なじみのある曲に似ているがそれはそれとして楽しい一曲である。

アップテンポの曲が続いたとはシェルハースの長いストリングス・トーンに導かれて、これもキャラバンの代表曲であり、ソフト・マシーンとの繋がりを示唆する名曲"Backwards"から"A hunting we shall go"へと続く組曲が演奏される。ストリングスに乗せて、この上なく美しいピアノのメロディーが奏でられると会場からは拍手とため息がわき起こる。ヴィオラがリードしていき、ギターとのユニゾンとなり、和声に分かれたクライマックスへと進むと、そこからドラムロールのフィルとなって一気にハードな"A hunting we shall go"へとなだれ込む。この辺りの曲構成は実に上手いものである。

最後の曲はもちろん"For Richard"である。ヴィオラとボイルの弾くボトルネック・ギターが効果音的にサウンドスケープを作り出すなか、静かに歌い出すヘイスティングスの繊細な声に会場は水を打ったように静まり返っている。ここでもピチカートで弾くヴィオラがブルージーなソロを聴かせ、ボウイングに移ってからもブルージーなまま、語るように続ける。
そして長く引っ張るブレイクパートのあとに始まる、ジャム大会。シェルハースのオルガンがテーマを奏で、そして変奏曲へと変えていき、今度はエレクトリック・ピアノに音を移してヴィオラとの掛け合いとなってベテラン同士の息の合ったところを充分に見せてくれる。
コフランのドラム・ソロをフィーチャーし、そしてクライマックスへとなだれ込むのだが、こらがまた滅茶苦茶にへヴィーな音で、衰えるということを知らない6人の底力を見た思いである。

ここで一度ステージを降りる面々。会場に詰め掛けた30年来のファンははアンコール曲が何であるか薄々判っている。ヴィオラの通奏音からドラムスの轟きで始まる"Memory Lain , Hugh"、そして続く"Headloss"。
"Memory Lain , Hugh"では往年の名作「For Girls Who Grow Plump in the Night」(邦題「夜毎に太る女のために」)の内ジャケット写真が目に浮かぶ。30年来といえば会場も中年あるいは中年を過ぎたオジさん連中が大半なのだが、そのオジさん達が頬を赤らめて総立ちで手拍子をたたく姿というのもほほえましい。シェルハースのキーボードが高らかに響き、ジャジーなフルートを挿んでカウントオフとともに"Headloss"へ。軽快さを保ちながらもキメのリズムを随所に織り込み、エンディングにはボイルのギターソロをフィーチャーして圧巻の演奏を締めくくる。

次に来る曲はもちろん・・・と思いきや再びステージを降りるバンド。しかし観客は当然のごとくセカンド・アンコールを要求する。曲は他でもない、"If I could do it all over again , I'd do it all over you"である。もともとは単純なリフレインのコーラスの歌詞がそのままリズムになっているポップ・チューンで、発売当時はヒットもしたのだが、ステージではリチャードソンのスプーン・パーカッションの妙技を披露する"とぼけた味わい"と目を惹くパフォーマンスとが合わさり、興奮に満ちたショーを締めくくるにふさわしい曲として演奏されている。
ちなみに、昨年の日本公演ではスプーンの音をスタンドマイクで拾っていたのだがあまりよく聞こえなかった。今回はスプーンそのものにピックアップを取り付けて、エレクトリック・スプーンとしてバージョンアップ、十分にその妙技を味わわせてくれた。こういうところにもキャラバンというバンドの音楽への熱意が感じられてうれしく思ったものである。


Members:
Pye Hastings (Guitar,Vocal)
Geoffrey Richardson (Viola, Flute, Spoons)
Richard Coughlan (Drums,)
Jan Schelhaas(Keyboards)
Jim Leverton (Bass, Vocal)
Doug Boyle (Lead Gtr)


<Set List>

1. All the way (with John Wayne's single handed liberation of Paris) / BDaSD
2. A very smelly, grubby little oik /BDaSD
3. Liar /TBoH
4. The dog, the dog, he's at it again /FGWGPitN
5. Nine feet underground /ItLoGaP
6. Tell me why /TUBI
7. Revenge /TUBI
8. Nightmare /BbF
9. Smoking gun /TUBI
10. The unauthorized breakfast item /TUBI
11. Backwards - A hunting we shall go /FGWGPitN
12. For Richard /IICDiAOA,IWDIAOY
Encore:
13. Memory Lain , Hugh /FGWGPitN
14. Headloss /FGWGPitN
15. If I could do it all over again , I'd do it all over you /IICDiAOA,IDiAOY
(Album acronym: "Blind Dog at St. Dunstans", "The Battle of Hastings",
"For Girls Who Grow Plump in the Night", "In the Land of Grey and Pink", "The Unauthorized
Breakfast Item" (new to be released), "If I Could Do it Over Again, I'd Do it All Over You")


レポート: Tatsuro Ueda
撮影: Yoko Ueda
編集: Asako Matsuzaka
取材協力:
SMASH, On Air West


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